昔の名曲には「夢ならさめないで」というフレーズが多い気がするが、実際夢から覚めなかったら現実問題好きな人に会うこともまともに会話することもできない、そしてそれ以前の問題として栄養失調その他諸々の要因で自己の命が危険に晒されるわけだ。
かつて恋愛とはサバイバルだったって?そんなわけあるかいつだって怖いのは愛なんかじゃない。


夢の中で「ああこれは夢だ」って気づけるやつはなんとなく尊敬する。俺みたいな単純型の人間は目の前にあることをそのまま現実として鵜呑みにするから全く気づかない。たとえ屋上からバンジーで宙を舞ったとしてもどこぞのロボット突き抜けて四次元に行っても気づかない。そして目覚めて落胆するんだ。

そこに俺たちが求めたものは実在などしていなくて、けれど存在は確かにしていたという境界線すらも曖昧な、矛盾。夢に終わりはなく、そしてはじまりなんてものも最初からなかった。
夢とは、無でしかなかった。


人のために流す涙がある。一羽の燕が高層ビルの間を飛び抜けていった。あの鳥の辿り着く先を、俺たちは知っていた。




「なあ、涼野」




俺の隣で健やかな寝息をたてている涼野は当分目覚める気配すらない。安らか、とは形容しにくくとも幾分安堵を窺えるその寝顔は年相応に、幼い。夜の空気は未だ哀しさを孕んだまま呼吸のために震え続けている。

愛が怖いなんてことはない。夢が無であると気づかされるのなんて今に限ったことじゃない。命のむかう先には死しかないなんて、わかってる。
それでも感情を手放さずにいられないのは、愛を知りたいと願うのは、夢から有を生み出したいと祈るのは、命が終わるそのときまでに何かを残したいと、望むのは、きっと。


人の温もりとはなぜこうもあたたかいのか。あたたかいから温もりなのか。では、なぜあたたかいのか。温もりとはどうしてあたたかいのか。




「お前が教えてくれたんだよな、なあ、涼野、」




寄り添う俺のからだは冷たかった。ただ、指先が、あいつに触れることを欲している。頬をなぞる俺の手の青白さに目眩がした。明日は一番星を見つけられるだろうか。



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