朝。 いつもどおりの朝。 百パーセント何の変哲もない、朝。 名前か名字「……」 俺は布団の中でふと目を醒まして、それから『ああそうか、これは夢に違いない』と思った。 次に思ったのは『黙ってりゃイケメンなのに勿体ないよなー』。んで、しばらくしてようやく『あれ?なんでこいつがこんな所にいんだ?』ってなって。 そこでやっと意識が覚醒して、俺は硬直することになる。 ヒロト「うーん…なんだい緑川、まだ起きるには早いよー……」 名前か名字「なああああああああああああ?!!」 なんで、俺のベッドでヒロトが寝てんだぁああああ! ベタな展開とか結構です 落ち着け。まずは落ち着くんだ、俺。不意打ちで焦ったが、俺にはそういう趣味はない。いくらヒロトを含めたイナズマジャパンが全員ガチ、あるいは両刀だったとしても、俺には全くの無関係のことじゃねえか。俺は音無が!好きなんだ!落ち着け!! とりあえず布団をひっぺがして、未だベッドの上でぐずるヒロトを無理やり叩き起こした。文字通りゲンコツでな。ごつん、っていい音が響くと同時にヒロトも目が覚めたらしく、声にならない悲鳴をあげて頭を押さえている。自業自得だ。 ヒロト「っつー…!……あれ?おはよう、名前か名字くん。いい朝だね」 名前か名字「おはようさんヒロト。ただ、いい朝ではないな。なーんで俺の部屋にいんのか説明してもらおうじゃねえか?」 ヒロト「俺、この時間帯にロードワークするのが日課なんだ。一緒にどう?」 名前か名字「いやだからそれは置いといて、説明……」 ヒロト「今日の朝ごはん何かなー?あ!そういえばさっき君俺のこと殴ったでしょ!いきなり何すr」 名前か名字「話を聞きやがれ赤チューリップ!!」 ヒロト「あいだっ!」 日本語が通じないこの宇宙人にもう一発げんこつをお見舞いしてやる。「俺は円堂くん以外に蔑まれる趣味はないよ!」って言われましたが、おあいにくさま。こっちにもそんな趣味はないんで窓から逆さに吊るされたいのか?って笑顔で返したら、ヒロトは動かなくなりました。そうそうその調子で黙ってろ宇宙的大馬鹿くん。 ヒロト「うう…ひどいよ。もとはと言えば君が誘ったんじゃないか……」 名前か名字「…………」 …………………は? ヒロト「俺の夢のなかで」 名前か名字「つまりお前の意識の中だけでの出来事じゃねえかっ!!!」 ヒロト「だって!『お前がいないと眠れないんだ…』って言われたら、例えそれが夢の中のことでも一緒にいてあげたくなるじゃないか…!」 名前か名字「そんなことを言われる夢を見たことないからわかりません!」 俺みたいな一般人が、ヒロトみたいに常に頭の中がビッグバン状態のやつをまともに相手にすること自体が間違いだった。 まあ悪気があったわけでもなく、寧ろ(ヒロトの妄想の塊の中の)俺を心配してくれたみたいだから、今回だけは目を瞑ってやることにする。 名前か名字「ったく…とにかく、こういう心臓に悪いことはもうすんなよ…」 ヒロト「えー」 名前か名字「えー、じゃない。皆を起こしにくるマネージャーに見られたら、どういいわけすりゃいいんだよ」 ヒロト「だって実際俺たち何も……」 名前か名字「何もなくてもな、この年頃の奴はそういう展開を想像しちまうもんなんだよ」 ヒロト「ぶー……」 名前か名字「あんまり聞き分け悪いと、緑川に言いつけるからな」 ヒロト「それは困るよぉおおおっ!!」 名前か名字「うおっ!」 緑川の名前を出した途端、ヒロトが泣き叫びながら俺に抱きつき…いや違う、そんな甘いもんじゃない。ラグビーとかアメフトとかのタックル的な勢いで飛び付いてきやがった。骨が軋んだのは気のせいだと思いたい。 ヒロト「緑川ってばああ見えてけっこうネチネチするタイプだから!昼も夜も!」 名前か名字「下ネタやめろ!わかった、わかったからどけ!」 ヒロト「本当?ホントに絶対だからね!俺お仕置きとかされるの絶対嫌だから!」 名前か名字「お前らのアブノーマルな事情なんて知るか!いいからどけ!重い!」 ヒロト「馬鹿な…!吹雪くんの次くらいに軽いと自負していた俺が…重いなんて…?!」 名前か名字「あーはいはいすみません軽いんでどけてくれー!そろそろマネージャーが…」 そのとき。 ぎい、と扉が、開いた。 木野「名前か名字くーん、朝だよー!ほら、起き、て……」 名前か名字「……」 ヒロト「……」 木野の視界に映ったのは(おそらく、いや確実に)ベッドに仰向けに寝転がった俺と、その上に馬乗りになって泣いているヒロト。 これは、まずい。 非常に、まずい。 名前か名字「あの、木野……」 ヒロト「もう、名前か名字があんまり激しくするから…」 名前か名字「お前次に余計なこと言ったらマジで抹殺するからな」 木野「ごめんなさい、私……!」 名前か名字「いや、待て落ちt」 木野「私、何も見てないから…誰にも言わないからっ!」 名前か名字「ちょっ……待てェエエエエ!!!」 全速力で走り去った木野を、さらにトップスピードで追いかけた俺は、きっと風になれたんだと思います。 (その日、一日中木野とぎくしゃくしていたのは言うまでもない) |