前回のあらすじ?んなもん省略だ一話前見て確認しやがれ。

そんなこんなで音無と買い物に来た俺だったわけだが、手放しで幸せを噛み締めてもいられない。
なぜなら。彼女の兄が鬼道有人の皮を被ったシスコンの化身であるからだ。文法おかしいとか普通に思っちゃったやつはツッコミの才能がありませんあしからず。





視線が痛いんだが






鬼道「……」
不動「……」
名前か名字「……」


感じる。ものっそい視線をひしひし感じる。獲物を仕留めるハンターさながらの鋭い目付きで、俺と音無の並ぶ姿を睨み付けていやがる。いや、ゴーグルが邪魔で目自体は見えないんだけど。
シスコン王との異名を持つあの鬼道のことだ。この分だと地獄の果てまで俺たちについてくるだろう。というかこれを尾行と呼んでいいのかさえ疑問だ。こんな殺気剥き出しにしやがって。めっちゃくちゃ怖いんですけど。
その前に不動は帰れ。


音無「名前か名字さん、どうかしました?さっきから眉間にしわ寄ってますよ?」

名前か名字「あ、ああ。わり」

音無「荷物重いですか?ごめんなさい、つい買いすぎちゃって…」

名前か名字「いや、それは平気。ゾウ一頭分までならいける」

音無「あはは!なんですか、それ!」


軽いジョークに屈託ない笑顔で返してくれる音無。駄目だ、かわいすぎる。笑顔が眩しい。やべっにやける耐えろ俺の頬筋!
って幸せもつかの間。すぐに背後からゾクッと悪寒を感じて、俺は息を呑んだ。奴が見ている。間違いなく俺たちを凝視している。恋の試練にしちゃ壁高すぎね?

すでに数件の店を回って、今後必要なものは揃えた。その間も絶え間なくジェラシーを帯びた殺気が背中に刺さり続けていたが、音無のさっきの笑顔で全部帳消しにしようと思う。恋は盲目ってあながち嘘じゃないんだな。
鬼道と不動の冷たい視線はさておき。とりあえず今はこの幸せを噛み締めておきたい。音無とデーt…ごほん。買い物なんて、忙しくてそうそう出来ることじゃないしな。


音無「あっ」

名前か名字「?どうした?」

音無「い、いえ!なんでもないです!」


慌てて音無はかぶりをふったが、そういう仕草をみすみす見逃す俺ではない。音無の見ていた先には、レトロな雰囲気のアンティークショップ。そこのショーウィンドウに飾られているアクセサリーの一つに、ふと目が留まる。
彼女の好みを把握しているわけではないが、いくつか並べられているなかで音無が好きそうなデザインのものは、なんとなくわかった。ピンクの硝子が埋め込まれた、音符の形のネックレスだ。


名前か名字「あれか?」

音無「えへ。ちょっと可愛いなあって思って。さ、早く帰りましょ!」

名前か名字「買わないのか?」

音無「はい。マネージャーの仕事するのに、ああゆうのは邪魔になっちゃいますから」

名前か名字「年中無休でマネージャーってわけじゃねえだろ。見ていこうぜ」

音無「でも、荷物重いんじゃ……」

名前か名字「重くねえって言ったろ?ほら、来いよ」


俺が先にショーウィンドウの前まで来ると音無はやや躊躇って、けどすぐにはにかんで俺の隣に駆け寄ってきた。思った通り、音符のアクセサリーが気になるみたいで、しきりに値段をチェックしてはうーん、と首を捻らせている。


名前か名字「高いのか?」

音無「いえ、割りと良心的なんですけど…やっぱり最近じゃジャージの方が多いから、買うのはやめておこうかなって」

名前か名字「へえ……デザイン的には、かなり気に入ってんのか?」

音無「もっちろん!すごく可愛いです!」

名前か名字「そっか」


お前の方が可愛いけどな!なんてうっかり口に出しそうになった。落ち着け、俺。


名前か名字「じゃあ俺が買ってやるよ」


これはうっかりじゃない。
音無はぽかんとした表情で俺を見ている。なんとなく照れ臭くなって、俺は咳払いを一つして店の中に入った。からんころんとベルが鳴って、レジから「いらっしゃいませー」と声が聞こえる。
俺を追いかけて入ってきた音無が、やっぱり目を丸くしたまま俺の手を掴んだ。ちょっ待て、緊張してんのばれる。


音無「ちょっ……名前か名字さんっ?!」

名前か名字「なんだよ、不満か?」

音無「そうじゃなくて!駄目ですよ、先輩に悪いですっ!」

名前か名字「俺がそうしたいっつってんだからいいんだよ。日頃の礼みたいなもんだから、大人しくとっとけって」

音無「でも…」

名前か名字「んで、今度俺と出掛けるときに、そのアクセサリー着けてきてくれ。な?」

音無「!」



き・ま・っ・た!
いい感じにさりげなくプレゼントを渡して好感度をあげる作戦せ・い・こ・う!今ので俺の株が上がったことはほぼ間違いないだろう!グッジョブ俺ヘタレなわりによくやった!!

普段物なんて買わない俺の財布にはけっこうな額が入ってる。代金を支払い、店員さんが素早く小包に入れてくれたそれを受けとると、ほい、と音無に渡した。一瞬迷ったようだったが、すぐに音無は俺が惚れた極上のスマイルを浮かべて受け取ってくれた。


音無「ありがとうございます、一生大切にしますね!」

名前か名字「おう」

音無「一緒にデートする約束、忘れないでくださいよー?」

名前か名字「おーう………あ?待て、デーt」

鬼道「で…デエトだとおんどれごときがああああああ!!!」

名前か名字「ぎゃああああ!」

音無「お兄ちゃん!」


降臨なすった!メデューサが俺の血肉を貪るために降臨なすった!石にされる!
あれがお兄ちゃん?いいや違うぜ音無、あれは鬼道の皮を被ったシスコンの妖怪だ。その背後にはベンチウォーマーもといイカれモッヒーまで待機している。ジ・エンド・オブ・オレ。


鬼道「こんな安物で俺の春奈たんをたぶらかそうとは不届き者が!血祭りじゃぁああああ!!」

名前か名字「うるせえよ!安物とか失礼なこと言うな!ここ店前だぞ!」

鬼道「加えてデートの約束まで取り付けるとは貴様いい度胸だな!この世の地獄を見せてやろう!!」

不動「よっ、イケメーン」

鬼道「よせ、照れる」

名前か名字「帰れ!あと怒るかいちゃつくか絞れ!!」

不動「別にいちゃついてなんかねえよハゲ死ね」

名前か名字「少なくとも毛根に関してはお前よりずっとふさふさしてるけど?鏡でその頭ちゃんと見てこい」

不動「バーカ。精神的にはげてんだよ名前か名字クンは」

鬼道「よし。もっと言ってやれ」

名前か名字「うぜえええええええ!!!」


なんでこんな目にあわなきゃなんねえんだ。恋愛は自由って偉人の言葉をしらねえのか。って言い返したいが口の減らないこいつら相手に俺がそう強くでれるわけもなかった。情けないが、命は惜しいよな!


音無「もう、いい加減にしてよお兄ちゃん!不動さんも悪ノリが過ぎますよ!」


だから、この場を治めた彼女の一言に、俺たちは一同いろんな意味で口をあんぐり開けるはめになるが、それはまた別の話だ。




音無「私と名前か名字さんがどんな約束をしても、それはお兄ちゃんには何の関係もないじゃない!」



ごもっともな意見だ。
この後鬼道は部屋に引きこもり暗黒の呪文をぶつぶつ唱えるようになってしまったらしい。(不動談)俺は決して謝らない。謝らないんだからなっ!


(だって俺、ぶっちゃけ何もしてないし)







………あれ。
そういえば、あの台詞は音無が俺とのデート了承してるような物言いだったよな?
これは、もしかしたらもしかしたりするのかもしれない。

とか考えて早とちりだったりしたら恥ずかしいから、そっと自分の中で自己完結させておこう。

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