名前か名字「………」 ぱちっ。 なーんて効果音がつきそうなくらい、突然。本当に突然、俺の意識は覚醒した。 視界に広がるのは少し斑な染みがある、見慣れた白い天井。今まで何度世話になったかわからない、医務室の天井だ。 …………医務室? ほらね、現実はね、 名前か名字「!!!」 ガバッ、と起き上がったら、やっぱりそこは宿舎の中にある医務室だった。俺はそこのベッドで眠っていたらしい。夢だった!あれは全部夢だったのか!!よかったキャッホォオオオオry 豪炎寺「大丈夫か名前か名字!!」 名前か名字「ォオオゥッ!」 ドアからいきなり駆け込んできたのは豪炎寺。興奮の雄叫びを聞かれてしまった俺は肩をビクッと跳ねさせ、バランスを崩してベッドから横転。 うん、今なら羞恥で死ねる。 名前か名字「いでで……ご、豪炎寺か……」 豪炎寺「すごい叫び声が聞こえたぞ!大丈夫か!やはり倒れたときに頭を打ってどこかイカれてたんじゃ……」 名前か名字「ああああああ全て忘れろォオオォオッ!!!」 ……いや、待て。要は考えようだ。見つかったのが豪炎寺で良かったのかもしれない。 もしもこれが、例えば風丸や吹雪みたいな何かの菌に感染したみたいな電波中毒者だったら、俺は今ごろ全力で壁に頭を強打して自殺を図っているはずだ。 よし!豪炎寺で!本当によかった!! 虎丸「やだなあ、名前か名字さんがオカシイのなんて百も承知のことじゃないですか!」 きた! もっとめんどいやつ! 豪炎寺の背後から現れた虎丸はペロッと舌を出して「あっ、本心出しちゃいました!」なんてほざいてやがる。 でも反論はしない。ある意味、虎丸に逆らうのは風丸たちと口論して勝つことよりも無謀だ。 名前か名字「なんでお前らここにいんだよ……」 豪炎寺「お前が心配だったからに決まっているだろう」 虎丸「そんな豪炎寺さんが名前か名字さんに襲われるんじゃないかと思ってついてきました!」 豪炎寺「お前は少し黙ろうか」 虎丸「男はみんな獣ですからね!油断してたら豪炎寺さんなんてペロッと食べられちゃいますよ!」 豪炎寺「俺を食べようなんて物好き、日本にはお前くらいしかいない」 名前か名字「ついでに俺にはそんな趣味はねえ。あとお前が肉食系すぎんだよ」 虎丸「豪炎寺さん、ここにちょうどベッドがあるからどうですか!俺たちならきっとヤれry」 名前か名字「よそでやれ!!」 豪炎寺「いや俺には風丸がry」 虎丸「豪炎寺さああああん俺本気出しちゃいますよォオオッ!!!」 豪炎寺「尻を撫でるな、イグニッションされたいのか」 虎丸「え?それは俺の仕事ですよ」 豪炎寺「やめてそのガチな反応」 名前か名字「だからよそでやれェエエッ!!!」 俺の渾身のツッコミもむなしく、今にも豪炎寺に襲いかかろうとしている獰猛な虎(オス、12才)には届いていないようだ。泣きそう。 名前か名字「……ん?心配?」 豪炎寺は言った。心配して来た、って。確かにここは医務室のベッドだが、俺自身特に具合が悪いとかそんなことはない。 交通事故?違う、それだったらまず病院送りだ。 名前か名字「豪炎寺、お前さっき俺が倒れたっつって……」 豪炎寺「バカ!虎丸、お前どこ触って……っ」 虎丸「風丸さんがいない今がチャンスなんです!手っ取り早く既成事実作りましょう!大丈夫、ちゃんと責任とるんで!!」 豪炎寺「いやいやいや色々おかしい。まず俺は孕めない。あと普通に怖いんでやめてください」 虎丸「優しくするんで!」 豪炎寺「答えになってない。名前か名字くーんとりあえず救助を求める助けてください」 名前か名字「虎丸、あとで豪炎寺の使用済みタオルやるからちょっと話させてくれ」 虎丸「仕方ないですね。三分だけですよ?」 名前か名字「よし」 豪炎寺「いやいやいやいやおかしい。何がよし?根本的に未解決なんだが」 豪炎寺にはいろいろもろもろ申し訳ないとは思う。が!俺が虎丸に勝てるはずもないから仕方ないよな! 名前か名字「お前さっき俺が倒れたとかどうとか言ってなかったか?」 豪炎寺「ああ、覚えてないのか?」 名前か名字「さっぱり」 虎丸「まあ名前か名字さんの頭は都合がいいようにできてますからね」 名前か名字「そりゃどういうことだ、クソチビ」 豪炎寺「名前か名字、お前買い物帰りにグラウンド近くで突然倒れたんだぞ」 虎丸「そうですよ。俺たちはその場にはいなかったんですけど…あとでお礼を言ったほうがいいんじゃないですか?」 豪炎寺「そうだな」 名前か名字「お礼?誰にだ?」 豪炎寺「久遠監督だ」 名前か名字「………監督?」 豪炎寺「ああ、ここまでお前を見つけたのも運んだのも監督だ。……いや、そう言えば音無も一緒だったか」 名前か名字「………」 そうだ。 全部、思い出した。 俺は、あのときグラウンドで見たんだ。監督と音無を。それで、声をかけようとして、だけど、 声を、かけられなかった。 たぶん、その時に意識が吹っ飛んだんだ。 監督と音無が、抱き合っていたから。 虎丸「もう三分たったんで、そろそろ開拓工事始めちゃっていいですか?」 豪炎寺「なんだその危ない表現。お前少しは小六らしくしたらどうなんだ」 虎丸「……名前か名字さん?」 豪炎寺「名前か名字……?」 二人のやりとりを聞いても、全てを思い出してしまった今となってはツッこむ気になれない。見間違いじゃない。あれは、監督と音無だった。あのときの二人が、網膜の上に張り付いてしまって離れなかった。 (失恋、か) 事態を呑み込めていない豪炎寺と虎丸が、互いに顔を見合わせる。半開きのドアから流れ込んできた風が、ひどく肌寒く感じた。 |