拝啓、日本在住のお母様、並びにお父様。
貴方様方の息子はただいま生死の間飛び越えて魔界に堕ちております。しかも天使一人道連れの旅です。こんなことってあるんですね、人生って怖い。
いや、本当に怖いのってこれからだよな?





成る程ここが地獄…じゃねえよ魔界だよ畜生






名前か名字「いつつ……」

どれくらい意識を失っていたかはわからない。すごく長い間だった気もするし、ほんの二、三分だったような気もする。覚醒した意識がはっきりと周囲の様子を認識することが出来るようになったころ、ようやく俺は事態を把握したのだった。
魔界。実際行ったことなんてなかったが(当然だ)、円堂に聞いた通りの場所だ。陰湿で、光の差し込まない闇の世界。岩壁に備え付けられた篝火が妙にそれらしい雰囲気を醸し出している。

堕ちた、のか。
地獄…ってゆうか魔界に。


セイン「ようやく目覚めたか」
名前か名字「!」


景色にばかり注目していて気づかなかったが、隣にいたセインも一見怪我もないらしい。露骨に不機嫌さを見せながら、チッと苛立ちを隠しもせず舌打ちしている。うん、俺が悪い訳じゃないんだから八つ当たりはやめてほしい。


セイン「く…よもやこの私が下賤な魔界の民に不覚をとるとは……」

名前か名字「まあ、不意打ちだったしな」

セイン「愚か者。全ては貴様のせいだ。貴様ごときに救いを施そうとしたために私は…」

名前か名字「責任転嫁やめろ、俺だってもういっぱいいっぱいなんだよ」

セイン「……ちっ。貴様、その様子では気づいていないな」

名前か名字「あ?」

セイン「手足を見てみろ」


じゃら。
セインが片腕をあげて見せる。その手には鉄の枷。そこから伸びた鎖がさらには両手両足を結び、自由を奪っている。


名前か名字「……」


自分の手足を見てみた。うわー、これすげえ錆びた鉄の臭いするー。くっせー。


名前か名字「……ぎゃああああああああああ!!!!!」
セイン「うるさい」


な…なんじゃこりゃあ!!
少年漫画とかでよくある感じに、見事に体の自由を奪われている。え、なにこれ。俺縛られて何かに目覚めるとかそんな性癖はないんだけど。
完全に囚われの姫状態。……自分で言ってて気持ち悪くなってきた。


デスタ「ははははは!やっと気づきやがったかバカ共が!」


そんな折、突如黒い霧が立ち込めたかと思ったら、不意に現れたあの恥ずかしいユニフォーム姿。


名前か名字「お前は…南雲の後釜の厨二!!」
デスタ「ちげえよ!魔界の戦士だっつってんだろ!!」


デスタは鮮やかにツッコミを決めたあと、「ちっ…まあいい!」とセインの胸ぐらを掴みあげた。
「ぐっ!」と悲鳴を洩らしたセインを愉快そうに見下ろしたデスタが、品定めをするような目付きで今度は俺の方を見た。


デスタ「さて、この男にはいろいろ借りがあるからな…!こいつの魂を食いつくした後に、てめえの魂も食ってやるからよ!!」

セイン「くそ…もし今が夜であるなら貴様にマウントポジションを取られることなどなかっただろうに…!!」

デスタ「なんだその妄想!一度たりともそんな過ち犯したことねえぞ!!」

セイン「私たちの関係を忘れたのか?昼は忌み嫌い合う敵、そして夜は密かに慕い合うセf」

デスタ「言わせねえよ!!ホント妄想癖やめろよいたたまれなくなるだろうがよぉ!!!」

名前か名字「いや、俺そういうの慣れてるから別に恥ずかしがらなくていいぜ」

デスタ「うるせえ!!」

名前か名字「あとさあ、デスタ君」


にっこり。
俺はやつに微笑んで見せた。
瞬間的に固まる天魔組。うんうん、物分かりのいいやつはけっこう好きだぞ、俺。


名前か名字「お前、さっきセインに借りがあるとかなんとか言ってたけどさあ」

デスタ「あ、え、なっ……」

名前か名字「俺もお前にあるんだよなあ…借り的なものが」

デスタ「ま、待て。落ち着け話せばわかr」

セイン「なんだこの禍々しいオーラは……!」

名前か名字「お前、あんときはよくも…音無にあんなことやこんなことしやがったなゴラァ!!!


ゴゴゴゴ…というこれまたいかにも少年漫画とかでよくある効果音がその場に響く。
え、俺?怒ってますけど何か問題でも?

ってゆうか怒らない方がおかしくね?連れ去ったりお姫さまだっこしたり、顎クイってやったことだけに止まらず、音無確か服装変えられてたよな?あれってまさかデスタに剥ぎ取らry………許すまじ許すまじ許すまじ許すまじゆ・る・す・ま・じ!!!


デスタ「は、はんっ!テメエの手足についた枷のことを忘れたのか?!お前はそれ以上動くことはできねえはずだ!!」

名前か名字「ふんっ!!」べきっ

セイン「デスタくん枷が破壊されました応答をどーぞ」

デスタ「やべえあいつただの化け物だ!!!」

名前か名字「魔界人にいわれたくねえよ、大人しく俺に葬られやがれ」

デスタ「ぎゃああああああムリムリムリムリ!!!おまっ、なんでセインはよくて俺はダメなんだよ!!!」

セイン「ふははははやはり日頃の行いの違いだな!!」

名前か名字「セインも後で消すさ。リカの仇もちゃんとうつ」

セイン「地上の人間って過激!!!」


まあ消すってのはいいすぎにしろ、二人まとめてミンチにしようと思います。


名前か名字「おら、歯ぁ食いしばれ!!!」
デスタ「ぎゃあああああああああ!!!」
セイン「神よ我らの命を救いたまえ神よ我らが親愛なる天空の神よ…!!」


とりあえず鬱憤ばらしに握りしめた拳を振り上げた。男に多少の喧嘩は必要だって母ちゃんが言ってたから問題ない。というかここ魔界だしもうルールとか関係ないよな!そう思った瞬間、だった。

名前か名字「!!」

なんだ、と悲鳴を発する暇もなく俺は眩しい光に呑み込まれて、気づいたら意識まで真っ白になって。
(あれ、なにまだ続くのこのパターン。)
遠くでデスタとセインの悲鳴を聞きながら、やがて手放した意識の片隅でそんなことを考えられるあたり、俺ってかなり大物なんじゃないかと思ったりした。







おまけ


セイン「……行ったのか」

デスタ「は、え?!あ、あいつは?!!」

セイン「あやつはもともと死んでこちらに来たのではない。死ぬほどショックなことがあったのだろう。その衝撃で魂だけがこの世界に来ていただけだ」

デスタ「そ、そうなのか?!!」

セイン「危なかったな…あやつが消えるのがあと少し遅かったら、私たちの命はなかっただろう……」

デスタ「縁起でもねえこと言うんじゃねえ!!!」

セイン「しかし恐ろしかったな…魔王よりも遥かに」

デスタ「い…いや?全くそんなことはなかったぜ?なっさけない野郎だなァ!!がははははは!!!」

セイン「ふん、貴様の方がよっぽど不様ではなかったか」

デスタ「うるせえよクソ野郎!!!」

セイン「………随分な言いようだな。口の聞き方がなっていない」

デスタ「あ?」

セイン「いい機会だ。こうして会えたのも何かの縁。私と貴様の関係について確認しておこうか」

デスタ「は?あれ、お前手枷……」

セイン「さっきの衝撃で外れたが?」

デスタ「……」

セイン「さて、まずはマウントポジションの確認から」

デスタ「それはもういいだろ!!ちょっはなせぇええぇえっ!!!」

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