拝啓、日本在住のお母様、並びにお父様。
ただいまあなた様方の息子はライオコット島で生死の間をさ迷っております。





成る程ここが天国





名前か名字「どこだ、ここ」


普通に道を歩いていただけのはずだった。テーピングを買いに行った帰りに音無を見つけて、声をかけようとして。そのときに――
あれ、もしかして俺、車にはねられた?
いや、わかんねえ。そこらへんの記憶が完全にぶっ飛んでる。俺、音無を見つけた後どうしたんだっけ。いや、待て落ち着こう。今考えるべきはそっちじゃなくて、現在地だ。
少なくとも、現実的じゃない光景だった。そこら一面に咲き乱れる花の匂いが充満して、まともな思考力が失われつつあるのかもしれない。この景色を見た瞬間、俺は「ああ、なんだ天国か。」と思ってそれを疑わなかった。反面「んなわけあるか。」と思う自分もいたが、もうどっちを信じたらいいのかわからない。
とにかく、天国なんじゃないかと錯覚するほど、自然に満ち溢れた幻想的な世界だった。


セイン「貴様、ここで何をしている」
名前か名字「げ」


来ました。来ちゃいました。死んでも電波から離れることが出来ない俺、めっさ不憫じゃね。
いつの日かリカを拐っていった天空の使途(笑)が俺の目の前に現れた。さて、どうする。
▼ たたかう
▼ つかまえる
▼ はなす
▽ にげる
選択肢は、やっぱ一つだよな!

と・う・そ・う!


名前か名字「さらば!」
セイン「待て貴様話を聞け!」
名前か名字「ぐはっ!」


ものの二秒で捕まる俺ってなんなの。そんな鈍足じゃねえよ畜生これだから天使様は!


セイン「質問に答えろ。なぜ貴様がここにいる」

名前か名字「バカ野郎、んなもんこっちが知りてえよ」

セイン「意図せずにここへ来たということか?」

名前か名字「あ?そうだけど」

セイン「ああ。それはな……御愁傷様です」

名前か名字「なんで今態度180度改めたんだよ!!」

セイン「死者には礼儀を尽くす。我らのしきたりの一環だ」

名前か名字「やぁめぉろぉ!!死んでねえよぉぉぉぉそんな現実突きつけんなぁああああ!!!」

セイン「しかし円堂くんのように自ら来たのではないとすれば、天に召されたとしか考えようがない」

名前か名字「……」


え、まじで。
まじで俺しんじゃったの。


セイン「まあ、ここで会ったのも何かの縁だ。大天使様のもとへは私が直々に連れていってやろう」

名前か名字「………いやだ」

セイン「なに?」

名前か名字「嘘だ。そんな…」


俺が、死んだなんて。
こんなあっさりと。


名前か名字「ふざけんな……」


だってまだ世界一になってないし、もっとみんなと話したいこともあったし、やりたいこともまだまだある。それに、音無に告白すらできてない。そんなまま、


名前か名字「このまま人生、終われるかよ!!」

セイン「!」


セインに詰め寄り、ぐっと奴の胸元に掴みかかる。わかってる。これがただの八つ当たりだってことくらい。だけどどうしようもない絶望感に当てられた俺は、この苛々をぶつけるのを止めることができなかった。


名前か名字「なんとか帰る方法はねえのかよ……!」

セイン「ぐ…離せ貴様!」

名前か名字「俺はまだ、死ぬわけには……まだ、」

デスタ「ふはははは!!みっともねえなあ、人間!!!」


その瞬間、俺とセインの間に雷みたいな閃光が駆け抜けた。いや、落ちたといったほうが正しい。あまりの眩しさに俺は目を瞑り、数歩後ずさる。
この声は、まさか。


セイン「貴様、魔界の住人である貴様がなぜここに…!!」

デスタ「なあに、気まぐれだ気まぐれ。そこの人間に天国は似合わねえからな、迎えに来てやったんだよ」

名前か名字「は」

セイン「なに…?」

デスタ「ついでだ。いけすかねえテメエもついでに魔界に堕としてやるよ!」


そう超次元ヘヤーのあいつが叫んだ瞬間に、俺とセインが立っていた花畑が崩壊し、足元が崩れ去った。叫ぶ間もなく、ぽっかりあいた暗い穴の中へと吸い込まれていく。いやいや、やっぱり落ちていく。


名前か名字「結局こんなんかよぉ!!!」


最期の台詞がこれとかやるせないけど、そんなこんなしてるうちに俺の意識はホワイトアウトした。
あれ、むしろブラックアウトじゃね?




(地獄に落ちるような生き方してないのにな)


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