「いただきます。」
あれから何度このすっぽりと空いた席を前に食事をしたのだろう
いつもならあの人が私の姿を見て微笑んでくれるのに…いや、鼻で笑うという方が正しいか…
でも、それだけで私が作ったご飯も美味しくなった気がして嬉しかった
……濃いな‥
ちょっと濃いめに作ってしまった味噌汁が喉を通していく
あの人は特に美味しいとか言わなかったけど必ず、残さず綺麗に私が作ったご飯を食べてくれる。
ちょうど今日で一か月だ。
三成と別れて……
***
1ヶ月前。
私達は同棲をしていた。
私が大学を卒業したら結婚、という雰囲気もありそれなりに楽しい生活をしていた。
大学を卒業するまで後、9ヶ月…
早く卒業したいな…
「ねぇ、三成!今日は私の好きな場所に連れてってくれるんだよね!?」
少し興奮気味の声で私は三成に問い掛けた。
三成は仕事が忙しくて滅多に2人で出掛けることがないから、今日が久しい休みだと聞いて私は喜んだ
「……あぁ、好きにしろ」
「へ?」
三成は珍しく私の我儘をすんなりと聞き入れた。
いつもなら、貴様の行きたがる低レベルな場所に誰が行くか!などと必ず悪態をついて少し口論になるも、何だかんだで私に付き合ってくれるが今日は素直すぎる…
少し戦々恐々として、なんて言い返そうか考えていた私が馬鹿みたいだ。
「……貴様…何をしている?」
「え?何って、せっかく快晴なのに三成が珍しい反応をするから、空から槍が降ってくるんじゃないかと…痛っ!!!」
私がカーテンを開けて空を凝視していると三成が手に持っていた新聞を丸めて私の頭を殴ってきた
「痛いな〜!殴ることないじゃん!!」
「貴様が馬鹿なことを言うからだ…私は奈美恵には十二分に優しくしている!」
嘘吐け!!!と私が盛大な返しをすると先程のよりも勢いを増して殴ってきた。
私は頭を軽くさすりながら、三成の顔を見て笑った。
三成も口元を軽く緩ませて微笑んだ。
こんなやり取りが私は嬉しくて、幸せだった―――
***
結局、この日は家でゆっくりと過ごすことにした。
貴重な休みだから二人っきりでいたいということになったからだ
でも、やっぱり三成の様子は変だった。
何かが違う…
違和感を抱きつつも私は三成とたくさん話をした。
違和感を取り消そうとするように私はしゃべり続けた
――――あ、もうこんな時間…
とっくに夕刻になっていて日が落ち始めていた
「三成、晩御飯何が食べたい?…食材があまりないから、豪勢なものは作れないよ?」
どうせ三成のことだから何でもいいって言うんだろうな…
確か、鶏肉が残ってたな…
冷蔵庫を開き私は鶏肉を探し始めた。
「…奈美恵……実は…話がある…」
「何?話って?」
私は鶏肉を冷蔵庫から取り出しカウンター越しに三成に問いかけた。
「…転勤することになった。」
「え?」
嘘でしょ?…転勤って……
「半兵衛様と秀吉様の命だ。海外支部の責任者になれと…」
付いて行くことなんて出来ない…
大学を中退するわけにはいかない…
あと…あと9ヶ月で卒業なのに… 遠距離…恋愛?
嫌だ、そんなの絶対に嫌だ
「い、いつ行くの?」
動揺が隠せない、妙に裏返った声で三成に問いた
「一週間後だ。」
「何で、何でもっと早く言ってくれなかったの!!??…何で…何で」
三成は顔の表情一つ変えず、私をずっと見つめていた。
それが腹立たしくて、反吐が出そうになった。
…馬鹿
***
それから互いに口をきくこともなく一週間が過ぎ、三成は旅立った。
行ってしまった…
私たちの関係も自然消滅へと向かった
連絡など一度もとってない。
この一か月は空虚だ。
漠然としていて何もなく、ただ味っ気のない日々が続いている
三成は何を想っていたんだろう…
「…しょっぱいや。」
やっぱり、今日の味噌汁は濃い。
鼻の奥がツーンとなって、目からは大粒の涙が絶えることなく出てきた。
もう戻れない…
あの頃には……
拝啓、もう会えない君へ
(会いたい・・・もう一度会えるなら、抱きしめて離しはしない)
企画に参加させていただき、ありがとうございます
BSR夢企画「燦参」様に提出