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※お試し連載一話掲載。続くかは不明。


土方十四郎という男は、周囲が認知する以上に恐ろしく有能で優秀な男であった。
例えば。
情報一つから十読み取り推測したりとか。
例えば。
組織を動かす上で必要な人間を見つけ、引き抜き、育てたりとか。
例えば。
捕り物を指揮し、緻密で幾重にも計算しつくされた作戦を練ったりとか。
「鬼の副長」と呼ばれている彼はその噂に違わず、他者にも己にも厳しく、冷静沈着で非情、そして正しかった。
普段のマヨネーズを偏愛する様や沖田に怒り狂っている姿の方にばかり目がいってしまい、また妖刀によって表へと顔を出したヘタレた部分が更に拍車をかけ、土方の凄さを隠してしまっているのだ。
だが実際問題、局長に近藤を据えてはいるものの新選組という組織を動かしているのはまぎれもなく副長である土方の功績に他ならない。
局中法度で屯所内を取り締まり、監察方を使って攘夷浪士の動向を探りつつ間者による情報漏洩を許さない内部監査及び暗殺など多岐に渡る仕事をおおよそ一人で処理している。
隊士達に疎いと思われている政治方面の問題だって伊東が来る以前や亡くなった後は土方が全て担い、そつなくこなしていた。
そんな土方は隊士から敬慕されてはいたが同時に畏怖され、頼られてはいたが敬遠もされている。けれど中には盲信とも言えるような忠誠心を持つ者だって存在していた。それらは土方の‘何か’に惹き付けられた者達だ。
分かりやすい例が土方直属の部下であり、密偵をこなす山崎退その人である。
ミントンをしてサボったりすることもあるが山崎は土方の忠実な狗だ。躾の行き届いた優れた狗。大事な要件に関して言えば仕事は速く、必要な情報と証拠を必要な分だけ選びわけ持ち帰ってくる。
これも土方が見つけ出し磨きあげた才能の一つで山崎にとって監察の仕事はある意味、天職であった。
土方の常人ならざる勘と非凡なその手腕があったからこそ、新選組は機能できていた。
つまり今、土方が潰れてしまえば新選組はあっという間に瓦解してしまう事を知る者は多くない。
だからかもしれない。
土方は新選組の「頭脳」。
当たり前のように認識されていたそれは、あまりにも甘いものだったのだと、土方一人で業務全体をまわしてきた代償は大きすぎる程に大きかった。
その日、土方は非番であったため、久方ぶりの休日をぶらり、ぶらりと徘徊しながら過ごしていたのだ。
ふと、人気の少ない通りの路地裏で女が一人、数人の男達に囲まれ震えているのに気づく。周りには土方と男達以外には誰もいない。女は目に見えて怯えているようだった。ここで女を見捨てるほど土方も冷徹ではなかったし、どうやら男達の会話を聞くかぎりにおいて攘夷浪士であるらしいと判断した。
土方は腰にある刀に手をかける。

「おい、」

男の一人に声をかけ、切っ先を首筋に添えた。

「女を放せ」

何の感情も浮かばぬ抑揚のない声に男は恐怖を覚え、ゆっくりと女から手を離す。

「こっちへ」

土方は女を促し、背後に庇うように立ちながら、屯所に連絡を入れようと携帯を探ったその時。
バチリ、と何かがはぜるような音が聞こえ、体から急激に力が抜けるのを感じた。倒れ伏す瞬間、目に映ったのは嫌な笑みを浮かべた男達としきりに「ごめんなさい」と呟き涙を流す女の姿。そこまでを掠れた視界に収め、土方の意識はぶつりと途切れた。





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