桂/銀魂


 
本当に儘ならないことばかりだ。

こんなつもりじゃなかった。そんな言葉が頭の中を締めていたけど、いつだってそうだったじゃない、と思い出した。私のつもり通りとか、私の予想通りとか、できたことがない。でもね、ここまでとは、思わなくて。

「すまん、目覚めさせるつもりではなかったんだが」

アルコールが悪さしている時独特の感覚の中に目覚めたら、アルコールよりもっと悪さをしてる男のひと。自室のソファにもたれているのが分かってから、ブラが露わになっていることと、スカートがめくれ上がっているのに気付いて、これがどういうことなのか理解するまで、ちょっと時間がかかった。

「……それは、どういう謝罪ですか、こんなこと、」
「そうだな、本当は、ただ送り届けて寝かせてやるだけのつもりだったという意味と」

床に膝をついた桂さんの手が、私の膝から太ももをすう、と撫でた。突然痺れるように、そういう感覚が体の中に芽生えてきて、思わず身震いがした。

「こんなに早く目覚めさせるつもりではなかったという意味とだな」
「いい加減にしてください!」
「まぁ待て」

ソファが、今までに聞いたことの無い音で軋んだ。もたれる女と、馬乗りの男の体重なんて、このソファは支えたことがない。こんなのまずいのに、だめなのに、体内のアルコールと、女の体が、言うことを聞かないのだった。ブラの上から、ゆっくりと感触を確かめるように揉まれて、脳みそから、だらしない信号が発信される。布はずらされ、羞恥心に目を強く瞑った間に頂を軽く摘ままれて、体が大きくびくついた。

「あっ、や」
「本当にいい具合だ」

ああ、目覚める前から触られていたんだ。体の内に蓄積していた欲望が、もっともっとと、喚き出して、熱い息となって出てゆく。気がつけば簡単に、身にまとうものがスカートとショーツだけにされていて、でも、与えられる刺激が欲しくて、恋しくて、脳がふやけてとけて声となって流れ出て、目の前の人を誘ってしまう。

「まって、」
「そんな声で何を言う」
「かつらさん、顔、みせて」

しつこいほどに舐められもうふやけてしまっていそうな胸に顔を埋める彼が今、どんな表情をしているのか、私にはまるで分からない。
いつも密かにじっと見入った、あの眩しい端整な顔立ちさえ、もはや思い出せない。どんなつもりで、思いで、こんなことを?こんなことになるはずじゃなかった、いつかちゃんと思いを告げて、そうして…なのに。
視線をあげ、私の目を見た、熱にうかされたような表情を見ても、私に彼の心が見抜けるはずもなかった。それから緩慢な風に、口付けを受ける。喜んでいいのか、悲しんだらいいのか、頭は迷っているのに、軽薄な心は燃え上がり、身体を煮立たせた。舌を絡ませ合えば思いが通じ合うような錯覚に陥って、夢中に訴える。しかし急に彼の舌はおざなりになり、そしてショーツに指を入れられた。

「だ、め、やめ」

舞い上がった心が男らしい指を思い、熱に燃える身体が指先の与える感覚に酔い、腰が揺れる。いい具合だ、と、また桂さんが呟く。入り口を確かめるように撫でていた指がすんなりと中に潜り込み、上がる水っぽい音。恥ずかしいくらい濡れているのが分かって、情けなくて、でももはや、快感に溺れたい気持ちさえ現れてしまっていた。
不安で、悲しくて、切ない気持ちが、体を支配する快感に負けそうになっている。なぜこんなにも気持ちが良いのだろう、とぼんやり考えた。下がる髪を耳にかけて現れた彼のこめかみに汗の粒が見えた時、私の心と体が、ひとつに重なりあった気がした。

「かつら、さん、」
「ああ」

彼の顔が降りてくる。また私がキスを強請っているのだと思ったのだろうか。でも、強請られるのが、嫌じゃないって、こと?深追いされるような口付けに溺れながら、手探りで彼のシャツのボタンに手をかけた。

「きて、いいですよ」
「なんだ、急に可愛いことを言う」
「だって、好きなんです」

一瞬私を見つめて少し切なげに眉を寄せた表情が、何を意味しているのか分からない。分からないから、探したい。ベルトに手をかけたら、彼の手が重なって、少し性急にガチャガチャと音を立てた。入り口に彼のものがあてがわれる。裸の背中に手を回して、思い切りしがみついた。
私の体と心は、あなたへの恋しさに重なったから、もう怖くない。体の内側からの圧迫感に、息を吐いた。眉根を寄せた彼の額から汗が落ちる。目の前が白く塗りつぶされかけた時、きっと、私は見つけられる。

あなたの心は、その体のどこにあるのか。



一子



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