貧血系男子


俺は貧血持ちだ。
いつからかは忘れたけど、まるで女子みたいに貧血になることが多かった。
ちょっと寝不足だっていうことはあるけど、それでも理由は不十分だと思う。

そしてそれは、突然やってくる。




───あぁ、まただ。

視界がぐるりと回転し、足でうまく立っていられない。
さすがに昼休みの廊下で倒れるのは避けたいから(いろんな人が注目するからだ)、俺はふらつく足で廊下を通り、渡り廊下に出た。
渡り廊下のむこうは旧校舎だから、人はほとんど通らない。
だから、俺がよく目眩がおさまるのを待つために使っていた。

壁に一旦背をつけてしまうと、そのまま力が抜けてズルズルとしゃがみこむ。
──目眩がおさまらない。
目をつぶれば気持ち悪くなるから、ゆっくりとした瞬きを繰り返した。

頭がぐるぐるして、このまま倒れ込みたくなる。
でも、それだけは耐えなければ。

なかなかおさまらない目眩に少し焦りが出始めて、立てた膝に腕を乗せて顔をうずめた。
目をつぶると、さっきよりはマシになっている。
チャイムはいつ鳴ってしまうだろう。あと少し、あと少しあればおさまりそうなんだけど・・・・・・・



「あ・・・れ?さかき?どうしたよ」



突然の声に肩を揺らして顔を上げると、そこには同じクラスの東藤がいた。

急に顔を上げたから、ぐわんと視界が曲がる。


「ちょっと・・・っ、貧血、で」

「・・・・・そうだな、顔真っ青。」


東藤はそう呟きながら俺のそばにやってくると、何を思ったのか、俺の隣に腰かけた。
その距離が異様に近いのは気になったけど。


「・・・・?」


俺が頭にクエスチョンを浮かべていると、東藤はへらりと笑って呟いた。


「だから、顔うずめてたんだろ?まだ顔青いし、またそうしてなよ」


そして、手が伸びてきて、頭をやさしく押される。
自然と頭が、さっきの位置に戻った。
目をつぶると、やっぱりさっきよりはよくなっている。東藤のおかげだろうか。


しばらく無言のままじっとしていたら、だんだんと目眩はおさまってきてやっと止まった。
東藤にお礼を言おうと思って顔を上げると、思った以上に距離が近くて東藤が優しい顔をしているのに気づいた。気づいてしまった。


「ん、もう顔色は戻ったな。でも念のため保健室行っとく?」

「え、あ、いい・・・大丈夫」

「ホント?」

「うん」

「じゃ、教室戻るか」


東藤はそう言うとゆっくりと立ち上がった。そして俺を見る。
どうやらまだ心配されているようだ。
だから、立ち上がってふらふらしないのを確認してから東藤に向く。


「東藤、ありがとう」


そう言ったら、とても驚いた顔をされた。でも、すぐに東藤は微笑む。


「・・・どういたしまして!またなんかあったら頼れよなー」

「え、うんっ」


つられて笑いながら、俺は東藤と並んで歩く。
しかしすぐにチャイムがなったので、慌てて廊下を走った。


 

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