1 / 鼓動

 脈の計り方というものを知ったのは随分幼いときだった。たしか父が手ほどきをしてくれたのだが、いかんせん小さすぎる手ではうまく相手の手首をつかめずに、ただむりやり指をのせるだけという不格好なかたちになった。
 いざ大きくなってから実践しようとするのだが、自分がやると正確な心拍が計れないというのがなまえにあたえられた結論だった。
 異性に手をとり握られるというのは緊張する瞬間らしい。ならいっそ首でみてやろうかと尋ねたら逃げられた。そんな他愛ない話をしていたら、練習台になってやろうかと、持ちかけられた。
「山崎さん、手首意外と太いですね。色々投げたりしてるせいかな」
「そうか?」
 色が白く指が長いせいか、一見たおやかな印象だが、しっかりと骨張った手だった。
「失礼します」
 触れたところから痺れたような気がしてなまえは一瞬気づかれぬように息を飲んだ。自分が動揺してどうする。
(体温、結構高い…)
 もっと冷えた肌かと思っていた。
 生身の相手がそこにいて、現実に触れている。あまりになまなましくて背中が粟立つ。いち、に、さん、拍動を数えて落ち着こうとする。よん、ご。
「…手ぇ冷たいな」
「え」
 山崎が発した言葉を理解するのに少し間があった。
「ごめんなさい、不快でしたか」
「貧血ないんか気になっただけや。爪割れとるし」
「これは…その、ただの外傷で」
 思わずひっこめたくなったが、耐える。
(恥ずかしい!)
 清潔にしていても、けして綺麗な手ではなかった。荒れもひびも傷もある。他の誰に何を言われても気にしなかったのに、山崎のたった一言で顔があげられなくなる。何故だ。
 落ち着け落ち着けと念仏のように繰り返して、指先に触れる脈拍の早まっていることに気がつく。自分の平常時の早さは嫌と言うほど覚えたし、少しのことで乱れるわずかな違いもわかるくらいに練習した。計り初めと今と、違っているのは間違いない。
(疾患じゃなさそうだし)
 おそるおそる顔をあげて、普段通りに冷静な表情をした人を伺い見る。爪の先まで眺めて貧血の見立てまでした人に、まさかという思いを抱きつつ。
「山崎さん、もしかして緊張してるんですか」
 すぐさま背けられた顔が答えだった。
「……俺かて動揺するわ、こんなん…」
 空いた左手に顔を埋めて溜め息をつく。呆然としたなまえに、せやけど、と前置きして山崎は指の隙間から視線をよこす。
「他の男でやるんなら俺にしとき。なんぼでも付きおうたるさかい」
「なんで」
「…動揺する、言うたやろ」
 同じ言葉を繰り返して、山崎はさっと立ち上がる。邪魔したわ、と言い置くや、振り向きもせずに去っていった。
 ひとりきりになったなまえは掴んでいた手のかわりに、自分の左手首に指を置いてみる。随分細く感じられた。先程のような痺れはないかわりに、胸の中心からうずきが広がる。
(わたしも、すごく動揺してた…)
 この疾患の名前は、たぶん、