異性の裸体を見たら悪いことがおきると思っていたけれど何ほどのこともなかった。目が潰れるわけでも罵倒され殴られるわけでもなく実に粛々とした時間だった。己を他人に見られることも他人のそれを見ることも禁忌だと信じていたのは錯覚だったのだろうか。
「ほら」
 促されて帯に手をかけた。ためらいの全てがなくなったわけではなかったが、相手に実行させておいて裏切るわけにはいかないという強迫観念のようなものが行動を促した。
 薄物一枚でもはだければ寒い。流れ込む冷気に体を震わせたのを勘違いしてか「安心し」とおだやかな声が頭上から降る。
「そないに酷いもんやない。最初に違和感あるだけや。すぐ慣れる」
「山崎くん経験あるの?される側で」
 さも当然のごとく言うので問うてやれば沈黙が返った。実体験もないのに迂闊なことを言うからだ。内心してやったりと思った。実際にはいごこちわるく体を縮めただけだが。
「見えん」
「たいして面白くもないよ」
「それこそ見る方の勝手やろ」
 しぶしぶ手も足も伸ばして座る。しかし面白がるんだか何だか、平静な顔だ。普通もうちょっとなにかあるんじゃないの、と溢したら鼻で笑われた。
「あってほしいんやったら、隠さんで大人しゅうしとき。多少抵抗されるんもええけどな、お前本気で逃げそうやし」
「…いまさら逃げるわけないってば」
 それでもまだ定まりきらない心中を読んでか、焦れたように烝が手を伸ばしてきた。
「え、あの、」
「まさかこれで終いなわけ無いわな?」
 長い指が乳房に触れた瞬間に押し殺していた羞恥心がすべて吹き出して、なまえはとうとう真っ赤になった顔を背けた。