予感はずっとしていた。
 戦になると聞いても、ああやっぱりと頷いただけだ。それは自分のみならず隊内の誰もが、いや京の、この国に住まうすべての人がたぶん同じ気持ちになっただろう。納得できるかは別にしても。
 なまえはその日普段と変わることなく食事の用意をし、病人の様子を看ながら掃除をしていた。
 戦には連れていけないと告げられた夜もいつも通りに台所に立っていた。
 予感はずっとしていた。
 一本だけ渡した苦無が形見になること、きっとおいていかれることを、なまえもずっとわかっていた。





 後悔がないなんて嘘だ。
 だけど、分不相応なくらいの幸せをもらったから、最後に会えないくらいは仕方ないと思う。

(なまえ、)

 こないに女のことばっかり考えてたら、鉄之助に腹抱えて笑われそうやな。仕方ないわ。仕事やりきって、姉上に許してもろて、鉄之助に礼を言うて、そしたら俺に残るんはお前のことだけや。


 おかしいなあ、あん時はえらいむかついたんやけど、今思い出したら喧嘩して怒ってるお前の顔も可愛いかったわ。
 泣いた顔もまあ…せやけどなんかあかん。
 できれば笑っとるお前が、一番好きやねん。
 
(なまえごめんな)

 おまえが死ぬまで一人にせえへんて、約束したいんやけどなあ。
 俺、もうあかんわ。
 なあ、笑ってほしいて、言うたら怒るか。
 怒ってても構わん。幸せになってくれるなら俺のこと忘れて構わん。俺よりええ男なんぞいっぱいおるやろ。笑ってて欲しいねん。
 …ああ、やっぱり泣くか?
 泣かせたくないんやけど、ごめんな。
 なまえ、なあなまえ、聞こえたらええな。

(…なまえ)