小説 | ナノ


彼氏がパチンコに行く、と言ったので、今月3回目のデート中止。いい加減もう我慢できない。

「私も行く」
「はあ?」

財布とタバコだけ持ったカイジの後ろにぴったりくっついて、離れてたまるかと睨みつける。

「いや…お前パチンコなんか興味ないだろ」
「教えてよ、パチンコ。カイジにあげたせいで私も今月ピンチなの」
「そういうのじゃねえからっ…………しかし…ああ…仕方ねえな……」

元はと言えばカイジがデートを蹴るからいけないんだ。本当にパチンコには興味なかったけど、カイジがいればいい。今日はそれで許してあげる。

それでもカイジは『ああ…』とか『うう…』とか言いながら、手を繋いでくれたし、私もそれなりに満足だった。パチンコ店の自動ドアが開くと、突然の轟音。思わず私の体が強張ったのに気づいたようで、カイジが何か言っているが、もはや周りの音にかき消されて何も聞こえない。結局カイジに連れられて色々な台を物色したあと、二つ並んで空いている席に座った。

カイジは私の台に千円札を入れると、何やら説明している。

「き、こ、え、な、い」

口パクで言うと、しばらく口をぽかんと開けたのち、こっちにぐっと身を乗り出してきた。

「このボタンで玉が出るから」

耳元で言われてカイジの息がかかる。思わずどきりとしたが、平静を装って言われた通りにした。

「ここの穴に入れると、スロットが回るんだけど…」

言いかけて、説明した方が早いとカイジは私の手を握ってハンドルを持たせる。カイジの大きな手に包まれて心臓が高鳴る。

「ここから動かすなよ。」

こくりと頷いたが、ドキドキして仕方ない。
ふと隣を見ると、カイジはいつにも増して真剣な顔で画面を見ている。

(黙ってればかっこいいのに……)

もっとも、珍しく見せる真剣な顔が、パチンコ台の前だから情けない。
自分の台を訳も分からず見ていると、「リーチ!」の声と魚群。
固唾を飲んで見守るうちに、程なくして画面には『7・7・7』の文字。

無遠慮に光る台と能天気な『ラッキー!』の声に、カイジはぎょっとした顔でこっちを見てきた。パカパカと開く穴を指差して、「ここを狙え…!」と耳元で言われる。指されたところに入るようになんとか調整すると、排出口から面白いようにパチンコ玉がジャラジャラ出てくる。これがなかなか気持ち良い。

カイジに言われるがままハンドルを握ったり戻したりしているうちに、やっと大当たりが終わったのは随分時間が経った後で、私の周りにはドル箱が積まれていた。

何やら不満そうなカイジと出玉を景品に変えてもらって外に出ると、ようやくカイジの声が聞けた。

「ビギナーズラックかよっ……」
「悪いわね。」

カイジはどうやら突っ込んだお金が全て飲まれたらしく、意気消沈していた。どうやら換金には別のところへ行かなきゃいけないらしい。歩きながら、カイジは困ったような顔で私を見た。

「楽しかったか?」
「うん。なかなか。ちょっと、クセになるかも」
「おいおい…」

自分があれだけのめり込んでおきながら、よく言う。でも、カイジは行きの道のように私の手を繋ぎ直して照れ臭そうに笑った。

「名前が楽しかったなら良かった」

そんな事を急に言うからこの男はずるいのだ。今日は特別に許したけど、次はないから、と手をきつく握ると、カイジは嬉しそうに握り返してきた。


パチンコデート



次の日、抱きついてきたカイジを振り払い、「パチンコ行ってくるから」と言い放った時の顔は忘れられない!


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2015/10/15 少し直しました
2人が打ってるのは海です

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