とある公園で幼い男の子が一人で駆け回っていた。 私はガラス細工をそれはそれは大切そうに抱えていた。何故それが大切なのかはわからないのだけど。 ――トン 後ろから走ってきた少年が私にぶつかった。その拍子に落としてしまった。静かな公園に響いたなにかが砕ける音。手から滑り落ちた大切ななにか、もといガラス細工は粉々になって地面に散らばっていた。私は後ろで尻餅をついている少年に「怪我はない?」と尋ねる。すると少年は「おねえさんは痛いの?」と小首を傾げた。 痛い? 何が? 何処からともなく現れたお兄さんが私にハンカチを差し出して気付く。 なんで私は泣いているんだろう? 優しい笑みを浮かべるお兄さんは「ウチの弟が貴女の大切な――を壊してしまったようで、申し訳ありませんでした」と頭を下げて謝る。少年もお兄さんを真似てお辞儀をした。 「大丈夫です。ただのガラス細工ですよ」 私は怒っていないことと大した物ではないことを伝えたかった。しかし、お兄さんは納得がいかないようで「この愚弟に償えるでしょうか?」と私に言ってきた。私は思わず首を傾げる。 「償う?」 「えぇ。なにか仕置きをしていただけませんか?」 「……は?」 「貴女がなにもしないのであれば、私が致しますがよろしいですか?」 この人は弟になにをする気なのだろうか。 不安に思いながらも他所様の子にお仕置きなど出来ない私は頷いてしまった。私の反応に満足したらしいお兄さんは素敵な笑顔で少年を殴り飛ばした。驚いた私は吹っ飛んでいった少年に駆け寄り、無事であることを確認すると「なにしてるんですか!?」とお兄さんに向かって声を荒げる。お兄さんは当たり前のことのように「お仕置きですが?」と笑った。 「それは貴女の大切なものを壊しました。貴女はその価値にお気付きになっていらっしゃらないようですが、弟の罪は重いのです」 私には意味がわからなかった。 「おねえさんは大切なものをなくしちゃったんだよ?」 頭から血を流している少年は悲しそうに私を見て言った。 大切なものってなに? あんな簡単に壊れてしまうガラス細工が私の大切なものなの? 粉々になったガラス細工に目を向けてもなんとも思わない。胸が痛むどころか、それがなにかもわからない。ただ漠然と大切だったと思えるだけ。 「貴女はきっと後悔します」 お兄さんも悲しそうな顔をして言った。 私がその大切なものを失うことは悲しいことなの? |