※スーパームーンとかよくわかってないのにネタにしました。 ※何故か大きなお屋敷にみんなで住んでいます。 ※パラレルです。 大豪邸と呼んでも支障がないほどの大きいお屋敷、『百花繚乱』。孤児や家出中、一人暮ししたい人など、様々な理由で色んな人たちが暮らしている場所。家主である秋本カシスは一階の広い居間でノートパソコンを眺めていた。 「お風呂空いたよー」 「はーい。パソコン置いてくから使っていいよ」 屋敷には風呂が2つあり、男用と女用に分けられている。 お風呂から帰ってきたメイファと入れ替わるようにカシスが風呂に向かった。「いってらしゃーい」と見送りつつ、メイファはノートパソコンの前に座った。 「やほー……くしゅん!」 「また髪乾かしてないじゃん」 「だってめんどくさいんだもん」 読書中だった久遠は居間に響いたくしゃみでメイファに気付いたらしい。普段は左側に高く束ねて結っているメイファの長い茶色の髪はまだ水を含んでいて滴りはしないが、風邪を引きかねない。だから乾かせと誰かしら言っているのだがメイファが自分から動いたことはない。明や来夢ならドライヤーを持ってきて乾かしてやるのだろうが、今は居間にいない。 「久遠さん、今日は月がすごいみたいだよ!」 「へぇー」 「見に行こう!」 ネット上で話題になっていたスーパームーンの情報にメイファは目を輝かせ、本に目を向けていた久遠の興味の有無については気にもとめずに彼の手を引っ張って外に出た。半ば強引に。 「お月様ー♪」 「風邪引くぞー」 「あれ、メイファと久遠……どうしたんだい?」 庭には先客がいた。血の繋がりとは恐ろしいものだ。ラウも月を見るために外に出たらしい。意図せずメイファと同じ行動をとったことにラウが少しだけ嬉しく思っていることなんてメイファは知らない。 それほど月に魅力を感じていない久遠は早く屋敷の中に入りたかった。5月初旬の夜風は冷たく寒い。 「うー……ぼやけて見える」 「目が悪くなったのかい?」 「パソコンの画面を見てたからじゃね?」 必死に月を捉えようと目を凝らすメイファにラウが心配を隠して小馬鹿にしたような言い方をする。久遠は思い当たる節があったのでそれをそのまま言った。 「なら、時間が経てば慣れてくるよね」 「本当!?」 ラウの言葉にメイファは嬉しそうに微笑んだ。 「普段、月なんて見上げないから違いがわかんねぇ……」 「少し大きく綺麗に見えるんだよ」 月を見上げていた久遠は「へぇー」と興味があるのかないのか短く返した。 ラウはいいことを思い付いて、メイファの肩を叩き目線を月から自分に移させる。 「月がぼやけて見えるのなら久遠の目を見るといい」 「? どうして?」 「彼の目は月に似ているからね」 「あ、そっか」と単純な彼女は納得した。スーパームーンを見るために外に出たのに、残念ながら久遠の目は金色をしているだけでスーパームーンでなければ月ですらない。彼の目を月に例えたのは誰だったか。見てもなんの意味もないのだけれど、メイファは素直に久遠の目を見上げている。この暗がりの中でちゃんと見えているのかは怪しいところだ。 「……なにしてんの?」 「あ、永久くん! おかえりー」 バイトから帰ってきた永久は自身の兄と友人の見つめ合いを不思議そうに訊ねた。答えは得られず、そこにいた三人に「おかえり」を言われて「ただいま」と返した。 「兄さん、これ」 「なに?」 「あげる。なんか月見て気付いたら買ってた」 「飴?」 永久は久遠の傍に行くと飴が入った袋を手渡した。黄色の袋のパインアメだった。久遠は「ありがとー」とお礼を述べながら永久の頭を撫でる。特徴的なアホ毛が手に合わせて揺れていた。 「永久くん、今日のお月様はいつもと違うんだよ!」 「あ、やっぱり。なんかでかいと思った」 メイファの言葉に納得したように永久は月を仰いだ。 違いがわかるのか、とラウは感心する。 永久は「じゃ」と片手を中途半端にあげて屋敷に入っていった。 「屋敷に入るなら飴も持ってってほしかったなー」 「永久くんには久遠さんの目はパインなのかな?」 「……ラウさん、意味がわかりません」 「僕もわからん」 メイファの台詞に「おたくの妹、何て言ってんの?」という言葉を暗に含んでラウに問い掛けた久遠に、「僕に振るな」という言葉を暗に含んでラウは首を振った。 そんな二人を知ってか知らずか、メイファは不思議な台詞の続きを話す。 「リュウさんは月、アゲハさんは蜂蜜、由良さんは光、カシスちゃんはレモン」 「…………」 「ってみんな例えてた!」 久遠の目を永久はパインアメに例えていたのかは謎だが、メイファはそう思ったのだろう。指折り数えていたメイファはぱっと花が咲いたように笑う。 「久遠さんの金の目はたくさんの可能性を秘めているんだね!」 「ふーん」 「メイファが可能性なら、僕は希望とでも揶揄しておこうかな」 「皮肉なの!?」 ラウの言葉にメイファは大袈裟なくらい驚いていた。メイファは真剣に言っていたからこそ、ラウは茶化したのだ。久遠にどんな言葉を投げ掛けたとしても彼が自身の目を好きになることはないとラウは知っている。 「もうぼやけてないんじゃない? ほら」 「あ、ホントだ……」 月を見上げて静かになったメイファに「そろそろ戻ろう」とラウは提案する。外に出た時からずっと屋敷に入りたかった久遠は「さんせーい」と手を挙げて主張した。 「そうだ、柏餅食べたい!」 「確かまだあったよな?」 「朝から食べてたのにまだ食べる気なのかい?」 「だってこどもだもーん」とメイファと久遠は同時に言い、お互い驚いたような表情で顔を合わせるとまた同時に笑いだした。 三人は並んで屋敷に入っていった。 |