百花繚乱 | ナノ

     14日目


 祭りまであと3日。今日は祭りの主役である歌姫が冥王に挨拶をするらしく、灰流や久遠、紅蓮、ミケ、カダも参列している。そのため、薬園も図書室も閉まっている。
 美雨の部屋には白雪、さくら、魅麗が集まっていた。

「そうそう、祭は3日あるけどあんたら何日目に行くの?」
「私は3日とも行きます!」

 久遠が作ったらしいケーキをフォークでつつきながら白雪は思い出したかのように聞く。それに対し、魅麗がいれてくれた紅茶に砂糖とミルクを入れていたさくらは元気よく答えた。
 3日も行くのか、若い子は元気だなー。
 美雨が感心しているのに反して白雪は「元気ねぇ」と呆れていた。

「薬園のこともあるからわたくしたちはバラけた方がいいだろうって久遠様がおっしゃったのよ。どうする?」
「あ、そっか……」

 薬草たちを3日もほっとくわけにはいかない。美雨は慣れてきたとはいえ、ミケか白雪がいないとまだ不安だ。二人の祭の参加日が被られると困る。
 そういえば、灰流には日にちのことは何もいわれていないのだけどいつでもいいのだろうか。

「ちなみに久遠様と銀狐と三毛猫はいつでもいいそうよ」
「なら阿弥陀クジで決めませんか?」

 白雪はいつの間に確認を取ったのだろうか。
 不思議に思っているうちに魅麗が紙とペンを持って阿弥陀クジを提案していた。特に異論はなかったので、阿弥陀はさくらに書いてもらって、ジャンケンで順番を決め名前を書いた。
 さくらは丁寧に線を辿って名前と日にちを照らし合わせる。その間、白雪と魅麗の会話を美雨はケーキを食べながら聞いていた。

「では、発表しまーす!」

 さくらは紙を高く持ち上げて結果を読み上げる。白雪が珍しくツッコミをせずに聞いている。

「13日は魅麗ちゃんでーす!」
「初日ですね、わかりました。ミケさまに伝えておきます!」

 13日は白雪と二人で薬園の作業をするということか。

「14日は……雪ちゃんでーす!」
「そう。じゃあ、最終日は美雨ね」
「はい!」

 さくらは結果発表を終えると紙を机の上に置いた。
 14日はミケと二人で薬園の作業か。祭がどんな感じなのか聞けるかもしれない。
 そして15日は美雨が祭に行く日。

  * * *

 しばらくわいわいと女子トークを楽しんでいたら、白雪が「そういえば、」と美雨を見る。見られた美雨が首を傾げる間もなく白雪の指が美雨の髪を持ち上げた。驚いて身を引くとするりと髪は白雪の手から離れた。白雪も手を引っ込めた。

「どうしたんですか?」
「ピアス持ってるのに開けてないのね」

 どうやら耳にピアスの穴があるか確認をしたらしい。
 さくらは首を傾げて「あける? なにをですか?」と不思議そうに問うと魅麗が自分の耳を見せながら説明していた。魅麗はピアスを左右ひとつずつ付けている。
 白雪は凍傷になるから付けられないんだっけ。

「開けないの?」
「学校の校則で禁止されてるから……それにわたしのじゃないし」

 「ガッコー?」と白雪と魅麗は同時に聞き返してきた。知らないのか。説明した方がいいのか迷っていると、考え込んでいたさくらが何か思い出したらしく喋り出す。

「確か久遠さんはコウコウというガッコウに通ってたんですよ」
「後攻? 先攻もあるのですか?」
「センコウ? あっ! 勉強を教えてくれる人のことをセンコーと呼んでました!」
「へぇー」
「さくらさまは物知りですね」

 先生を先公と呼んでたのか……。
 なんだか学校の認識が怪しいけれど、冥界にないのなら知らなくても困らないだろう。美雨は黙って見守ることにした。

「それで開けられないんだったかしら?」
「えっ、うん」
「そう。残念ね」

 たとえピアスホールがあったとしても美雨はつけない。似合わないだろうから。それに本当の持ち主に返したい。

  * * *

 トントンとノック音が部屋に響いて魅麗が「出てきますね」と席を立った。白雪は時計を見て「もう終わったみたいね」と呟いた。

「お邪魔しまーす」
「ケーキ食べとったん? ええなー!」
「…………」

 部屋の入口から戻ってきた魅麗の後ろには久遠とミケと灰流がいた。
 美雨を見て挨拶をする久遠、机の上にある皿を見て羨ましがるミケ、ただ無言で佇む灰流。三者三様の反応だった。
 さくらは久遠目掛けて抱き付きに走り出そうとしたが、白雪がいることを思い出して止まった。白雪は遠慮なんてしない。

「久遠様! ケーキありがとうございました。とても美味しかったですわ」
「おー。それはよかった」
「あと、わたくしたちは14日になりましたの」
「おっけー、当日は白雪の部屋まで迎えに行くからいい子にしてろよ」
「ええ。お待ちしております」

 白雪って久遠には敬語なんだよね。ちょっとだけ声も高い気がするし、表情だって可愛くなってる。本当に好きなんだと思えて、どこまでも真っ直ぐな白雪がとても眩しい。
 美雨は脳内で目を細めて二人を見ていた。

「ところで魅麗ちゃん、何日になったん?」
「魅麗たちは13日になりました」
「初日かー」
「ちゃんとエスコートしてくださいね!」

 ミケと魅麗が恋人同士と聞いてから並んでるのは初めて見た。あんなにひどい言い様だったのはなんだったのか魅麗は幸せそうに笑っている。

「美雨さん」
「えっ? あ、わたしたちは3日目最終日の15日だよっ」
「わかった」

 灰流に名前を呼ばれて慌て言葉を返す。変じゃなかったかな。たったこれだけの会話でも緊張してしまう。意識しすぎだ。
 俯いていると灰流が頭を撫でてくれた。いきなりのことに驚きすぎて声も出ず、俯いたまま動けない。どうしよう。

「心配しなくても君は必ず守るから」
「えっ」

 予想だにしなかった台詞が降ってきて思わず顔を上げた。驚いている美雨に対し灰流は「違ったか?」と不思議そうに眉間にシワを寄せている。
 祭に心配や不安が全くないわけじゃないから間違っていない。

「…………あ、ありがとう」

 真っ赤な顔を隠すように俯いて呟いた。頬が弛む。
 どうしよう、嬉しい。守るって言ってもらえた。死なれたら後味悪いとかそんな理由でもいい。どんなんだって構わない。好きな相手が守ってくれるなんて、幸せじゃないか。

  
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