参 『ジャックに会いたいか?』 指輪から聞こえた声にその場にいた4人は驚いていた。ウルフは来夢の手首を掴み、指輪をまじまじと睨み付ける。サタンは腕を組んで考えていて、ピーターは何故か目を輝かせている。来夢は応えたかった。会いたい、と。 「魔王の指輪か?」 「……だろうな。さっきの声は魔王か」 老眼のサタンは目を細めながら指輪を見ていた。ウルフは手首を放してくれず、痛いくらい強く掴まれている。 あれ、こっちの声って聞こえてないのかな? 来夢が不思議に思っていると指輪から忍び笑いが聞こえてきた。 『その通り。魔王だよ』 「なんでまおうさまのゆびわをらいむさんがしているの?」 『それはまあ、置いといて』 ピーターの無邪気な質問は置かれてしまった。 膨れっ面のピーターを慰めるように来夢は頭を撫でておいた。 『来夢、会いたければ案内してやる。 街の出口にお前の知ってる奴がいるはずだ』 「私の知ってる……人?」 塀の上で傍観していた黒猫は伸びをしてからそそくさとその場を去る。 来夢は魔王の言葉に小首を傾げた。 指輪から反応がなくなったからかウルフは掴んでいた手を放して来夢に視線を向ける。手首にはくっきり痕が残っていた。 「行くのか?」 「うん」 「では、我が出口まで案内してやろう」 「ぜったいにジャックをつれてかえってきてね!」 ウルフとピーターに手を振り、サタンと共に広場をあとにした。 ジャックは来夢のせいで魔王に呼び出されている。つまり来夢が悪夢街に行き来することに不都合があると考えられる。 ――なんとかしないと。 * * * サタンと来夢を見送ったピーターはふと塀の上に視線を向ける。もうそこには何もいなかった。 「黒猫か?」 「うん。よそものだね」 「ライムの『知ってる奴』か?」 「そこまではわからないけど……」 この街に入れる者など限られている。 ピーターは可愛らしい少年には似つかわしくないような低い声で「にんげんだよ」と呟いた。 * * * サタンに連れて行ってもらい、無事に悪夢街の出口に着いた。月明かりさえ届かない真っ暗な細い道の先に古びた門がある。あれが出口なのだろう。 暗くて足元が見えないからとサタンが手を引いてくれていたので転ぶこともなかった。 目を凝らして門を見ると、門に寄り掛かる人影に気付いた。 「どーも」 「……え、森山くん?」 門で待っていたのは同級生の森山久遠だった。 来夢は驚いてまじまじと久遠を眺める。暗い中でも眩い光を宿す金の瞳と目が合う。 「そんなに見詰められると照れるんだけど?」 「へ? ……あ、ごめん」 「お兄さんも。そんなに睨まれると穴が開きそうなんだけど?」 「うむ。ジャックは魔王の所にいるのか?」 サタンは久遠の言葉に大した反応を返さず、気になることを聞いた。いつも浮かべている薄い笑みで久遠はこくりと頷く。そして来夢の腕を引き、来夢を完全に門の外へ連れ出した。 来夢は自分が悪夢街から出れたことに少し驚きながら門の一歩手前に立つサタンに視線を向ける。 「気を付けて行ってこい」 「うん! すぐにジャックを連れて帰るから」 いってきます、と悪夢街に挨拶をして背を向ける。 久遠は来夢が歩き出すのを数歩先で待ってくれていた。来夢が隣に並んだことを確認してから歩を進める。 「あの、森山くんは何で」 「魔王と知り合いなんだよ」 「へぇ……」 ジャックにも何度か会ったことあると教えてくれた。匿名希望とは久遠のことで魔王に指輪を渡すように頼まれたのだそうだ。 そんな雑談をしながら魔王とジャックがいる魔王城に向かう。 しかし、来夢は悪夢街にとって自分が有害なのかどうかを聞くことは怖くて出来なかった。 |