カミサマ からりと晴れた日。なんとも散歩日和である、そんな日。 「かみさまー?」 永久がゴミ箱の中を覗く。 「どこー?」 メイファが塀の上から辺りを見渡す。 「すみません、これなんすけど……この辺りで見かけませんでしたか?」 レオンは道行く人に聞いていた。カミサマの行方を。 ■ ■ ■ お世話になっている喫茶店のマスターが差し出してきた依頼書。それは『飼い猫を探してほしい』という内容だった。依頼主が随分なお貴族様らしく無下に出来ないらしい。レオンはしぶしぶ受け取った。 依頼書を読んだ永久は猫の名前に眉をしかめる。 「猫に『カミサマ』って……」 「変わってるね!」 「猫を神聖化してるところもあるくらいだし、別におかしかねぇけど」 レオンの言葉に永久とメイファが不思議そうに首を傾げた。一般的じゃないのかとレオンはひとりで納得する。元々博識だからこういう反応を受けても気にならなかった。 「黒猫は不幸を呼ぶとかなら聞いたことあるけど」 永久の言葉にもメイファは首を傾げる。 黒猫に目の前を横切られたら不運に見舞われるとかそういうやつかとレオンは思い当たったのだけれど、メイファはピンと来ないみたいだ。 「メイファは猫にまつわるなんかないの?」 「うーん……」 「……」 「……」 「……ないかな」 熟考の末、なにもなかった。 記憶喪失といってもメイファは生活に必要な日常的なことやそこそこの教養は覚えている。つまり、猫についての逸話は本当に何も知らないらしい。 「とにかく、さっさと探して切り上げよーぜ」 「……レオン、もしかして猫き――」 「ほら! 永久は路地裏で、メイファは表通りな!」 「はーい!」 彼は猫が嫌いなんてものじゃない。 ■ ■ ■ 言われた通りに永久は路地裏を捜索しいていた。 探している猫は真っ白な毛色、碧の目、さらさらふわふわの毛並み、名前は『カミサマ』という。写真を見たとき「きれいなモップだな」と思うくらいに毛が長かった。そんな猫が屋外に出たらどうなるか。汚くなっているんじゃないだろうか。 春菜なら簡単に見つけ出せそうな猫探し。永久は離れ離れになっている幼馴染みたちのことを考えていた。 「(そういえば、莉音の家に残飯処理の猫がいたな……)」 あの猫は火から逃れられたのだろうか。 建物に囲まれた薄暗い道を進んでいく。すると、空き地に多数の猫と一人の少女がいた。猫の鳴き声に紛れて聞こえる、聞き覚えのあるおっとりとした優しい話し声。 「はる……?」 永久の声に振り向く少女。 「あ! 永久だぁ」 春菜だった。以前は明るい色の服を好んで着ていたのに、今は――ラウと連むようになってからだろうか――黒い服を着ている。まるで喪服のように思えた。 しゃがみこんでいた春菜は立ち上がって永久の前までやって来る。その後ろについてきていた猫の中に綿菓子のようなやつがいた。 「その猫! モップ――じゃなくて、カミサマ!」 「? ミーちゃんのこと??」 「えっ?」 誰それ。 足元の真っ白い猫を見て首を傾げた春菜に永久も首を傾げた。 |