自己意識
俺の名は、セイクレッド。
いつ誰が付けたのかは、知らない。
気が付けばそう呼ばれていたから、自分の名が「セイクレッド」なんだと認識していた。
今では誰一人として呼ばないが。
それもいつからだろう。
それ以前に、俺はいつから此処にいるのだろうか。
記憶力には多分、特別問題はないと思う。
記憶する必要がないから、記憶していないだけだ。
誰が名を付けたかも、
此処で暮らす理由も、
俺には一切必要のない事。
ただ、誰も俺を「セイクレッド」と呼ばない事情だけは知っている。
それは即ち、俺にも理由が必要だという事。
しかし世界中全てが、この名を知らない訳ではない。
決して口にはしないが、
二人の男と一人の女は知っている。
余談になるが、俺に名付けた者も。
そう滅多に機会はないが名を呼ばれる場面に遭遇した時は、皆、俺をこう呼ぶ。
【Dracule】
ドラクール、と。
俺は別に吸血鬼ではないのだが…。
どちらかと言えば、悪魔的な意味なのだろう。
そう。俺は【悪魔】と呼ばれる男。
漆黒の髪も瞳も、とても此の名に似付かわしい色だ。
表紙 W.A