用行捨蔵



「ん?何だ、こりゃ?」

勤務を終えたマクシムは、宿舎の出入口に設置されている集合郵便受を覗きながら首を捻る。

「差出人、書いてねえし。」

取り出した茶封筒に記されている住所や宛名に、間違いはない。

しかし彼の両親や兄弟は既に亡くなっており、また故郷での過去の出来事を思い返すと、尚更に自分に手紙を寄越す様な人物は全く浮かばなかった。

「今時の爆弾って、こんな薄っぺらいのか?」

マクシムは自室に戻ると、軽口を叩きながら封筒を開けた。



夕食を摂ろうと、マクシムは食堂の献立表をぼんやり眺めていた。

もう直ぐ、配膳の終了時間を迎えてしまう。何でも良いから注文をしようと、慌てて発券機へと向かおうとした、その時。

背後の人物と、肩がぶつかった。

「お、ワリ。」

食後の珈琲を手にした、ヴィンスだった。

「あ!て、提督!」

「ん、どした?柄にもねェ神妙な顔して。」

マクシムの覇気のない表情に、周囲もヴィンスに同意してげらげらと笑う。

彼はそんな同僚や部下を無視すると、必死にヴィンスに縋った。



「ったく。上官を部屋に招くなら、せめてもちっと掃除しとけっつーの。」

「すんません。でも、こんなの持って移動したくねえです。」

マクシムは、先程の手紙をヴィンスに渡す。

「あんだよ。生まれて初めて貰ったラブレターの自慢ってか?」

彼は手紙の内容に目を通す。

その表情は、徐々に険しいものへと変化して行った。

「は、なに。お前の女って何者よ?ものっそいラブレター寄越すな。」

「違いますって!俺だってこんなの、心当たりないですよ!」

「これ、預かんぞ。」

ヴィンスは足早に立ち去って行った。







彼はその足でヘルガヒルデの居城を訪れた。

電鈴を押すと同時に、満面の笑みを湛えたヘルガヒルデが抱き付かんばかりにヴィンスを出迎えた。

「おかえり!遅かっ…。」

「ん。お、おォ…?」

意外な展開に、ヴィンスは躊躇いがちに右手を上げる。

「…。」

ヴィンスの背後には、珈琲豆を手にしている無言のリュユージュが居た。

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