精励恪勤
翌朝。
ベッドを下りたアンバーが冷蔵庫から取り出した水に口を付けようとした瞬間、電子音が鳴り響いた。内線だ。
彼は今し方抜け出したばかりのベッドの縁に腰を掛けると、受話器を取った。
「はい。」
『俺だ。』
エヴシェンは続けて、こう言った。
『お嬢様がお呼びだ。そのまま、私服で構わない。』
アンバーは簡単に身嗜みを整えると、ビオレッタの部屋へと向かった。
「何でしょうか?ビオレッタお嬢様。」
「別に。暇だから。」
俯せでベッドに寝っ転がったままのビオレッタに対し、アンバーは心の中で溜息を吐く。
それはどうやら、エヴシェンも同様であったらしい。
「彼には、午後からお嬢様の護衛に当たらせます。それまでは休ませてはいかかです?疲労による集中力の欠如は、致命的なミスに繋がり兼ねません。」
「だってさ。どうする?」
彼女はシーツに包まったまま首だけを動かして、アンバーに向かって問い掛けた。
「問題ございません。」
ビオレッタにそう返答した後、彼はエヴシェンに視線を向ける。
「ご配慮、痛み入ります。チーフ。」
しかしアンバーのその挑戦的な瞳は、とてもそうは思っていない様であった。
「それはどうも、失礼したね。」
エヴシェンは頬を引き攣らせた。
「ねえねえ、そんな事より。『それ』、誰にやられたの?」
ビオレッタは好奇心を抑え切れないといった表情で、少し体を起こす。
「何故でしょうか?」
「聞きたいだけだよ。」
アンバーは僅かな間を置くと、静かに口を開いた。
「俺は護衛として雇われました。任務遂行の為に必要な事柄でしたらお答え致しますが、いかにせ俺の私事に関わり過ぎでは?」
「なに。つまり、話したくないって事?」
「そうなりますね。」
「本当に腹が立つな!」
ビオレッタは勢い良くベッドから飛び出すと、大股でアンバーに向かって行く。
「お、お嬢様!?」
エヴシェンが間に入ろうとした瞬間、ビオレッタの鞭がその頬に飛んだ。
「キミは少し黙ってて。」
彼は、その言葉に従うしかなかった。
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