前途有為



初回の航海演習を終えたリュユージュは、真っ青な顔で医務室のベッドで唸っていた。

演習の最中、実に数十回も嘔吐した。喉は酷くひりつき、胃液すらも既に涸れ果ててしまっている程の状態だった。

彼は司令官としての初仕事を出航してものの数十分しか遂行する事が出来ず、後はただひたすら悪心や目眩と戦うだけに終わった。



「酷えと聞いてはいたが…、マジで半端ねえな。」

マクシムは頭を抱える。

「多少は慣れもあんだけど、こんな奴は初めてだぜ。」

リュユージュは何も言葉を発せず、はあはあと荒い呼吸を繰り返しているだけだった。



「おゥ、どうよ?」

ヴィンスが様子を見に顔を出す。

マクシムは困惑した表情で、正直に結果を報告をした。

「小倅よ。」

ヴィンスは長い溜息を吐く。

「ぶっちゃけ、なんも別にわざわざがお前が司令官でなくても良いんじゃねェの?」

その言葉に、リュユージュは力無く血色の悪い顔を向けた。

「キアストス家の倅でも構わねェべ。あそこにもいんだろ、若ェのが。」

リュユージュは何かを言いたげに、体を起こす。

「あ、馬鹿野郎!今、起きんなって!」

「…っ。」

天地がひっくり返るかの様な酷い目眩に襲われたリュユージュはそのまま前のめりに倒れ込み、再び嘔吐いて咳込んだ。

「はッ、無様だな。」

リュユージュはシャツの袖裾で、口元の唾液を拭う。

酷い顔色と、その風貌。

しかし体調など構わずにベッドから勢い良く飛び出したリュユージュはヴィンスの襟を強く握り締めると、嗄声で彼に向かってがなった。

「無様だから何だ!笑いたきゃ笑え!」

「うォ!?」

酷く荒んだ態度のリュユージュに、ヴィンスは目を見張る。

「な、何だってんだ。別に笑いやしねェが、お前がそこまで無理せんでもって話しを━━、」

「尊厳も矜持も、僕には一切必要ない!」

呼吸さえも難しそうにしている彼の額は油汗に濡れて前髪が張り付き、頬には未だ乾かざる多数の涙痕が。

「いいから黙って見て…ろ…。」

途端、自分の襟を掴んでいた手から力が抜けた。咄嗟にヴィンスはリュユージュの背中に手を回し、崩れ落ちるその体を支えた。



昏倒してしまったリュユージュをベッドに横たえると、ヴィンスは溜息混じりに彼を憂えた。

「ッたく…。そういう意味で言ったんじゃねェっつーの、親子でどんだけ意地っ張りなんだよ。一辺こっちの身にもなってみろってんだ。」

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W.A


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