出来上がった温野菜とスープで食卓を整えるとリュユージュはベッドへと歩み寄り、自分の上着を手に取った。
頭から毛布を被って丸まるドラクールに向かい、静かに話し掛ける。
「今日は夜まで来れないから、後で将軍に願い申し上げておくね。」
「いや、いい。昼飯くらい抜いたって死にゃしねェから、誰も来させんな。」
くぐもった声の彼は、乱暴にそう答えた。
「分かった。」
リュユージュは短くそれだけ返事をすると、退出するべく歩を進める。
扉の前でかつんと踵を返すと、呟くように言った。
「いつか、君も知る時が来るよ。いかに、嘘に塗れた世界で生かされているのか、を。」
声を落とすリュユージュから、衝迫を抑えんとする様が伝わって来る。
「僕はこの身を呪った日もあったけれど、今では感謝している。大切なものを守る為に戦う事の出来る、自分にね。」
━━大切な…もの?
静寂の訪れた、室内。
ドラクールは毛布からひょっこり顔を出すと、湯気が立ち昇るテーブルの上の食事が目に入った。
━━せっかく温かいのを作ってくれたけど、夜まで食えないならもう少し後にするか。
なるべく体力を温存しようと、彼は活動を止めた。
孤独にも寂寞にも、慣れている筈なのに。
煢然たるこの空間が、今日は無性に腹立だしい。
自由を得られぬ自身が、今日は無性に恨めしい。
━━あいつの大切なものって、何だろう。家族?恋人?それとも、地位や名誉か?
何れにせよ、其処に己が含まれていない事だけは間違いないだろう。
未だ片生のドラクールがその真実を受け止めるのは、甚だ難儀だ。
━━だったら、俺になんか優しくすんなよ。一人で浮かれて、馬鹿みてェじゃねェか…。
毛布の端をぎゅっと握ると、彼は再びそれを頭から被った。
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