「何で俺が女の買い物になんか付き合わなきゃなんねえんだよ。」

「誰もお前に頼んでねえ。嫌なら帰れ。」

店の前で怠そうにしゃがんで文句を垂れるセブンに対し、アンバーは冷淡に言い放つ。

煙草を吹かすセブンは、彼に一つの疑問をぶつけた。

「しかし、抗争で殺されたマフィアの娘に利用価値なんかあんのか?」

アンバーは紫煙を吐き出すと、ビルの隙間から空を見上げる。砂埃に煙るそれを憂えた後で、漸く口を開いた。

「…さあな。」

「ぶっちゃけ、お前らしくねえな。基本的に、面倒事は御免だって性格してんだろ?」

返事は無い。セブンは失言したかと、弁解をする。

「いや、別にお前が冷血だとかって言ってる訳じゃねえけどよ…、おお、やっと来た。」

「待たせたな。」

両手にいくつか紙袋を下げているロザーナが二人に声を掛ける。アンバーは無言でロザーナの荷物に手を伸ばすと、半ば奪い取るようにして強引に彼女から引き受けた。

「ああ、悪いな。助かる。」

ロザーナはそんなぶっきらぼうな彼の気遣いには既に慣れたようで、笑顔を向けた。

「思ったよりも買い物に時間が掛かってしまったものだから、てっきり悪化してるかと思ったが。機嫌は直ったか?」

アンバーは後頭部に手を当て、決まりの悪そうな表情を見せた。

「実は今朝、すげえ自己嫌悪に陥っててな…。それでつい、あんな八つ当たりのような態度を取ってしまった。」

「そんなのは全く構わんさ。私は何も、感情を外に出すな、と言っている訳ではない。」

彼女は先程と変わらず、穏やかな笑みを浮かべたままで言った。

「ただ出来る事なら、余り焼け鉢な事は言わないでくれると有り難い。どうしても私としては、心配してしまうのだよ。」

「ああ、気を付けるよ。済まなかった。」

悄気げた様子で素直に謝罪するアンバーを、ロザーナは柔らかい視線で包む。

「無事に成長していたならばと仮定すると、息子は貴殿と然程年齢の差はないからな。つい、重ねてしまうのだよ。」

「…は?」

「貴殿からすればお節介でしかないだろうが、母親の気質だと思って諦めてくれるか?」

━━いや、異性として見られても困るが…。俺は息子の位置なのか?

若干、アンバーには衝撃的な事実だった様だ。



「それにしても、半分も持ってくれるだけで充分だ。一人では重いだろう、少し私に寄越せ。」

「それを気にするべきなのは、ローズではないと思うが。」

「ねえねえ。ボク、お腹空いたー。」

ビオレッタに視線を遣るも、全く嫌味が通じていない。

アンバーはそんな彼女に溜息を吐くも、何処か無下には出来ずにいる。その理由は、不健全に情欲を煽る露出の多いドレスではなく、活動的なパーカーにショートパンツという年相応な服装をしている所為なのかもしれない。

「白昼堂々、こんな街中ではさすがに襲撃されねえだろ。何か食って帰るか?」

「やったー!」

その言葉に笑顔で振り返ったビオレッタはアンバーに駆け寄り、腕に絡み付いて来た。

「何だよ、邪魔くせえ!俺が荷物持ってるのがお前には見えないのかよ?」

━━利用価値、か。あるとすれば…、

彼がビオレッタを振り払おうとする様は、端から見ればじゃれあっている仲睦まじい男女にしか見えない光景だった。

━━気が紛れるって程度にはな。

ほんの微かに、その口元が綻んだ。

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