宿屋の近隣にて、三人で朝食を摂る。港町の朝は早い為、店内はとても混み合っていた。
「あんた、女の割には結構食うな。」
「昔から良く、燃費が悪いと言われたもんだ。今は幸い、懐も温かい事だしな。」
「そういうのって、普通は仲間になったら返してくれんじゃねえの?」
セブンは煙草を噛み、そう苦笑を漏らす。
「仲間。」
ロザーナは一瞬、食事を進める手を止めた。
「だったらせめて対等に渡り合えんと、私には何の利点もないな。」
彼女は正面のアンバーに対して嘲笑するも、嫌味を言われた当人は視線を逸らしたまま珈琲を啜っている。
「喧嘩なら買わねえよ。」
「貴殿はいつからそんな腑抜けになったのだ、誠に嘆かわしいぞ。」
「勝手に勘違いしないでくれ。」
アンバーは重い溜息を吐く。
「俺はただ、無駄な負け戦はもうしたくないって言ってるだけだ。」
「もしかして昨日の、八百長じゃねえってのか?」
セブンの煙草から、ぽろりと灰が落ちた。
「当たり前だ、真剣で遣り合ったんだぞ?手を抜こうもんなら互いに怪我をする。」
それを聞いたロザーナも驚愕の表情だ。
「何だよ、その顔。二人共、俺の事を何だと思ってるんだ?完全無欠の機械じゃないんだぞ。」
アンバーは悄気た表情で、ぽつりと漏らした。
「『最悪の状況でこそ、勝利を』と、クラウス将官殿に御指導を頂いて来たが…。」
その、非常に暗い口調。
「俺には結局、一度も実現出来なかったな。」
「燻っていても仕方なかろう!私が鍛え直してやる!」
「いや、俺、まだ飯食ってな…、」
ロザーナは無理矢理、アンバーを引っ張って出て行った。
「え?俺、言ったか?」
彼は無意識に口元を押さえる。
「貴殿、あの男には話していないのだろう?己の、過去を。」
その言葉に、素直に頷いた。
「まあ、それは構わんが。」
ロザーナは微かな溜息を落とす。
「ただ私は、貴殿を違う名前で呼はねばならん事をとても哀しく思うぞ。」
傾慕と寂寥の混ざり合った微笑を、アンバーは彼女に見せた。
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