切歯扼腕



目に眩い、贅を凝らした煌びやかな王座。

其処に座する事を許されているのは、現世において唯一人である。



「去ね。邪魔だ。」

フェンヴェルグは自身の周りを取り囲む多数の護衛兵に向け、視線を走らせる。その中心には、彼等を付き従えたルーヴィンが跪いていた。

「しかし、聖王。」

ルーヴィンは理を言挙げしようとするも、フェンヴェルグがそれを遮る。そして再び、彼は護衛兵をぐるりと見渡した。

「我が言葉が己等には聞こえぬか?ならばその耳、切り落としても何ら支障あるまい。」

ルーヴィンは立ち上がって護衛兵を振り返ると、左手を胸の前で平行に動かした。彼等は一斉に敬礼をし、御前から立ち去って行った。

そして再び、ルーヴィンはフェンヴェルグの正面に跪いた。光沢のある絹糸の様なその金髪が、項を伝って頬に掛かる。

「例え両耳を削がれても、私は御側から離れません故。」

「構わぬ。彼奴等が邪魔だっただけの事。」

フェンヴェルグが王座から腰を上げた。黄金色の正十字が、その背中を彩っている。

まるで神威そのもののような厳然たるその尊容に畏敬の念を抱かぬ者など、恐らく赤子くらいのものだろう。

「機嫌取りという訳では無いが、無用にそれを損ねる必要もあるまいに。」

フェンヴェルグは低い声でそう呟くと、銀色に輝く長髪をなびかせながら応接の間に向かった。









王宮にバレンティナ公国の大公が到着した。

ベネディクトが護衛を仕り、大公と従者を賓客として迎え入れた。

仰視しなければ天辺が視界に入らない程の、応接の間の扉。それが開かれると、フェンヴェルグが姿を現した。



「御機嫌麗しゅう存じます。フェンヴェルグ様。」

「うむ。」

熟れた果実の様な深紅の髪に冴えた月光と同じ黄金色の瞳を持つ彼女の名前は、シエルラ・バレンティナ。

大変な美貌を持つ、未だうら若き大公である。

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W.A


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