乾坤一擲
「悪い知らせよ、坊や。」
窓際に腰を掛けて月を眺めながら酒を呷っていたドラクールは、突然背後から声を掛けられて酷く驚倒した。
其処には、髪と同じ色の深紅のドレスをひらひらとなびかせているカーミラの姿が在った。
「驚かさないでくれ。カーミラ。」
跳ね上がった鼓動を静めようと、彼は大きく深呼吸をする。
「摩天城がキャンベル王国に返還されたわ。」
「なん…だって?」
しかしそれは落ち着く所か、更に激しさを増して行った。
「だから、摩天城がキャンベル王国に返還された、と言ったの。もう、法治圏外ではなくなってしまったわ。」
彼女の言葉を要約すると、リサ達が危ないという事である。
ドラクールは縄も使わず、窓から飛び降りようと枠に足を掛けた。
「駄目よ、坊や!待ちなさい!」
カーミラはドラクールの左腕を抱え込む様にして強く掴み、彼を抑え留める。
「馬は!?何処だ!!」
「今の君に何が出来ると言うの!?」
「馬は何処にいるかと聞いているんだ!!」
「少し落ち着きなさい!」
二人は激しく言い合うも、ドラクールは力一杯に左腕を振るうとカーミラを払い除け、その身を外に投じた。
「待ちなさい、坊や!!」
カーミラは窓から身を乗り出して辺りを見回したが、ドラクールの姿は既になかった。
「待ちなさい…!!」
彼女は暗闇に向かい、声の限りに叫んだ。
「セイクレッド!!」
この呼び掛けが彼の耳に届いたかどうか、確かめる術は無い。
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