敬天愛人



楽園を彷彿とさせるかの様な、立派な庭園。

青々とした芝生に降り立った小鳥達は楽しそうに囀り、色とりどりの花達は今を盛りとばかりに見事に咲いていた。



それを臨むテラスにて紅茶を飲むベネディクトの隣で、ウィトネスはにこにこと微笑んでいる。

「暇ですね。」

「え、ええ。そう…ですね。王女。」

二人の背後には、お茶のお代わりやたくさんの菓子を手に持っている侍女達が控えていた。しかしその中に、ウィトネスの筆頭従者とも言うべきアリュミーナの姿はなかった。



「ねえ、将軍様。アリュミーナの御尊兄は、どんな方なの?お顔だけは存じているのだけれど。」

「彼女に似て利発で、とても心の優しい人物ですよ。」

ウィトネスはベネディクトのその答えを聞いて安心した様に顔をほころばせ、胸を撫で下ろす仕草を見せた。

「きっと素敵な方なんでしょうね。一度、お話ししてみたいわ。」

━━神よ、これは王女を傷付けない為の嘘です。どうか御慈悲を…!

彼女は心の中で十字を描き、虚偽の発言への許しを乞う。

これ以上リュユージュの話題を振られても自身の罪が深くなるばかりだと感じたベネディクトは、話しを逸らした。

「それにしても、素晴らしいお庭ですね。王女は普段、こちらでどうお過ごしになられていらせられるのですか?」

「そうですね、だいたいアリュミーナとお喋りしています。彼女が大聖堂の身廊で転んで国師様に酷く怒られたとか、花園で野兎を見掛けたとか。」

「左様で御座いますか。」

ベネディクトは金色の髪を傾け、王女に笑顔を向ける。しかしそれは明らかに引き攣ったものだった。

━━間が…もたない…。

アリュミーナとルーヴィンが不在の今、彼女が王宮の警備に当たっていた。

そこでウィトネスの宮殿を訪ねるとちょうどティータイムだった為、それに呼ばれたという訳だ。



「ベネディクト将軍様。お代わりはいかがですか?」

そう、侍女がティーポットを差し出している。

「ええ、有り難う。頂くわ。」

彼女は席を立つ時機を伺いつつ、毎回逃してしまっていた。

「将軍様はいつもこの時間は、何をしているの?」

「午前中は会議やら公務やらで、何かしらと忙しないですね。」

「そうなんですか、毎日お疲れ様です。」

ウィトネスはそう、思い遣りの籠もった温かい笑顔を見せた。

━━王女は后妃に良く似ていらせられるわ。

ベネディクトは后妃に仕えていた日々を振り返る。それと同時に彼女の表情も少し和らいで行った。

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