天質英遇



書斎にて、ベネディクトは乱雑な書架の整理をしていた。

今日は丸一日かけてそれをする予定なので、彼女は白いTシャツにジーンズという普段の甲冑や軍服とは掛け離れたラフな服装をしていた。

早ければ、今夜にもレオンハルトが大量の書類と共に帰港する予定だ。それらを保管する為の場所を空けておかなければならない。



「リュユージュを呼べえ!!」

ノックもなく突然、ルーヴィンが現れた。

扉を叩き付ける様に開けた彼は、疑う余地なく激怒している。

「は、はい!只今、レオンハルトを行…、あ、今いないんだったわ。ええと…。」

彼女は肩をびくつかせ、狼狽する。

例え戦場で多勢の敵兵に囲まれたにしても、この様に無様なベネディクトを見る事は絶対に無いだろう。

「お前が行けば良い!!」

ルーヴィンはそう怒鳴りながら、壁を拳で殴った。






「お待たせ致しました、兄さん。」

ベネディクトがリュユージュを連れて戻るなり、ルーヴィンは手にしていた封筒を彼の頬に強く叩き付けた。

「この大馬鹿者めが!!恥を知れ!!」

余りに突然の出来事に、リュユージュは唖然として言葉も出て来なかった。

「千慮に一得も無い愚者とは、正にお前の事だ!!」

「に、兄さん!!一体何が…!?」

書斎を出て行こうとするルーヴィンを、ベネディクトが必死に止める。

「離せ。」

しかし目を剥いた凄まじい怒りの形相のルーヴィンに、ベネディクトは無言で従うしかなかった。

乱暴に閉められた扉の衝撃で、本棚の硝子がびりびりと鳴った。



彼女はルーヴィンに握り潰されてしまった封筒を拾い上げると、中の書類に目を通す。

「これ、兄さんが怒るのも無理ないわ。」

リュユージュは、成績不良から士官学校の卒業は不可とされた。ルーヴィンが今し方投げ付けた書類とは、その決定通知であった。



「リュユージュ。」

ベネディクトは金色の髪を揺らしてリュユージュの方に顔を向けると長い溜息を吐き、暫くその碧眼で凝視した後、彼に厳命を下した。

「合議機関が貴方の今後を決定するまで、謹慎処分とします。」

この場においてリュユージュには何一つ語る事すら、許されなかった。

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