咆哮愽撃
「お取り込み中、悪いんだけどよ。北西の方角に、国籍不明の船舶を発見したぜ。」
マクシムからの報告に、レオンハルトは再び双眼鏡を取り出した。
「商船っぽい感じだけど、船旗がないんだよな。」
「本当ですね。船首楼も高い。」
「んー?」
マクシムはレオンハルトの隣に並び、自分の双眼鏡を覗いた。
「しかし、それにしてもやけに速い様な…。」
「確かにな。つーか、真っ直ぐこっちに来てねえか?」
その商船は著しい速度で、彼等の帆船に向かって来ている様子だ。
距離が縮まり、商船の姿が鮮明になると同時にレオンハルトは声を荒げた。
「あれは…っ、カラスだ!!海賊だ!!」
レオンハルトは有らん限りの大声で隊員と海兵に指示を飛ばす。
「旋回ーっ!!旋回ーっ!!接触するぞ!!衝撃を軽減しろ!!」
操舵手は警笛を鳴らし続ける。しかし相手が速度を落とす気配はない。
「海賊だと!?」
マクシムもレオンハルトの指示に従い、帆綱の操作に加わった。
「180℃の旋回後、南東の方角に全力前進!!敵船はカラスを装備!!接舷斬込を想定!!」
「だから何なんだよ、そのカラスってのは!」
力一杯に帆綱を引くマクシムが、怒鳴る様に尋ねる。
「他船に乗り移る為の架橋です!!」
横帆と比較して幾らか容易とはいえ、巨大な帆船を旋回させるに充分な時間はなかった。
「旋回後、第二隊は配置に就け!!攻撃を許可する!!」
「は!」
「ちょっと待て!砲撃されたんでもねえのに、先制は違法だろうが!」
レオンハルトの命令にマクシムが反論する。だが、彼は直ぐにそれを覆した。
「カラスを搭載した船舶は重量の均衡を保てないので、長距離の航行は不可能に等しい。沿岸ならまだしも、外洋で偶然に遭遇するなどあり得ません。間違いなく我々を待ち伏せしていたんです、攻撃する為に!」
「何だって…!?」
途端、マクシムの顔色が変わった。
「総員、敵船撃退に尽力せよ!!」
「は!」
いよいよ、目視距離に敵船が姿を現す。
━━奴等の目的は何だ?捕虜の殺害か、任務の失敗か…?いずれにしても面倒そうだ。
レオンハルトは、不可避な戦闘を覚悟した。
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