志操堅固



アンジェリカは毎日、其処にいた。

彼女の手の中にはくしゃくしゃになってしまったメモが在る。

━━お腹空いたな…。

夜空には無数の星が瞬いていた。



何も無い路地でただぼんやりと立っているアンジェリカに、近付いて来る人影があった。

帽子を目深に被っている所為で顔までは見えないが、服装からしてどうやら若い男の様だ。

どうせまた街頭の娼婦に間違われたのだろうと思い、男に向かって口を開いた。

「私、そういう事してるんじゃないの。人を待ってるだけよ。」

「うん、知ってる。」

何処か聞き覚えのある声に、彼女は目を見張った。



「ぎゃーっ!!」

相手がリュユージュと分かると否や、アンジェリカは悲鳴を上げた。彼は溜息を吐きながら帽子を取り、顔を見せる。

「ぎゃあって何だよ、僕は化け物か?」

「化け物に出会う方がまだいいわ!」

「悪かったな。」

「そんな事より、ギルバートはどこにいるのよ!」

アンジェリカはリュユージュが『47st.』とだけ記したメモを取り出して捲し立てるが、彼は言葉を発せず見据えているだけだった。

「な、何よ。どこか聞いてるのよ、睨んでないで答えなさいよ!」

彼はただ、無言で立ち尽くす事しか出来ずに居た。

「ね、ねえ。ちょっと…、何とか言いなさいよ!」

様子のおかしいリュユージュにアンジェリカは焦燥を感じ、一歩踏み出して詰め寄った。

「ねえ!」

彼女の不安と悲愴を極めた表情からリュユージュは目を逸らし、静かに告げた。















「ギルは…戻らない。」















アンジェリカは唇を強く噛み、拳を握り締めた。そして暫くするとその現実を受け止めた。

「それは、ギルバートの意志なの?」

「いや、違う。ギルは…、」

リュユージュは顔を上げ、アンジェリカに向き直る。

「だったら何も問題ないわ。私は彼が戻るまで、ずっと待ち続ける。この47番街でね。それだけよ。」

彼女の眼光は、未だ失われてはいなかった。

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