愛染執着



太陽が西に傾き始めた頃。

ルクレツィアは姿見の前で、衣装を取っ替え引っ替えしていた。

「あら、お出掛け?もうすぐお夕食ですのに。」

「ええ。すみません、皆様でお召し上がり下さい。」

「そうするわ。ところでどちらに?」

「凱旋パレードを見に行って参ります。お誘いを頂きましたので。」

「貴女って本当に無神経ね。呆れて言葉も出ないわ。」

「どうぞ、何とでも仰って。」

ルクレツィアは嘲罵を意に介する事もなく、化粧を始めた。






支度を終えたルクレツィアが居室に行くと、一斉に軽蔑にも似た視線が注がれた。彼女はその様を一瞥する。

「宜しかったら、皆様方も一緒に参ります?」

「いいえ、結構よ。ごゆっくりお二人で楽しんでいらして。」

「ありがとう。お言葉に甘えて、そうさせて頂くわ。」

彼女達の間に、嫌味の応酬が繰り返される。

一々それを気にしていたら、此処では到底暮らして行けないだろう。






迎えに来たレオンハルトに対しても、寵姫達は何処か不自然な態度を取る。

「何か…あったのですか?」

それは彼が無視を出来ない程に甚だしいものであった。

「エスメラルダの件です。お気に障った事とお察ししますが、お許し下さい。」

「エスメラルダ殿がどうかされたのですか?」

当然、レオンハルトが知る由もない。

「ええ。ままにある事ですので、ご心配には及びません。」

ルクレツィアの笑顔はそれ以上の詮索を頑なに拒否していた。

それが読み取れない程、レオンハルトは愚かな男ではない。



「あの、ルクレツィア殿。」

レオンハルトは話題を変え、彼女の方に向き直った。

「昨夜は誠に失礼致しました!」

そして深々と頭を下げた。

「昨夜?何かございましたかしら?」

ルクレツィアは小首を傾げて考える。

「は!自分がお迎えに上がった際に失言を…、」

人差し指を立てると小柄な彼女は背伸びをし、レオンハルトの唇の前に示した。

「ルクレツィアの記憶には、その様な事柄は残っておりません。どうぞお気になさらずに。」

近い距離での目配せに、彼の心臓は鼓動を早めた。

「は…。」

狼狽えて視線が定まらないレオンハルトから離れると、ルクレツィアは軽快に歩き出した。

「早く参りましょう?リュユージュ様がお待ちだわ。」

愛しい男と過ごせる時に心を騒がせているルクレツィアの横顔に、レオンハルトの胸は軋んだ。

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W.A


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