権謀術策



「お身体の具合は?リュユージュ様、おケガはされていませんの?」

「ご無事に戻られましたのですよね?」

「もう私、生きた心地がしませんでしたわ!」

「リュユージュ様のご機嫌はいかがでしょうか?」

室内から次々と玄関に集まり出て来た女性達は、レオンハルトに詰め寄って質問攻めにする。

彼女達の化粧と香水の匂い。そして艶麗な服装と華美な髪型。

彼がそれらに慣れる事は決してなく、吃音が増える。

「え、ええ。だ、大丈夫です。そ、それで、何方かを…、その…、お迎えに…。」



彼女達は顔を見合わせると、奥から控え目に様子を伺っていた一人の華奢な女性に向かって一斉に視線を送った。

「どうせ貴女でしょう、ルクレツィア。」

「早くお行きなさいな!」

「そうよ。リュユージュ様をお待たせするつもり?」

ルクレツィアと呼ばれた女性は他の女性に強く背中を押され、レオンハルトの胸に飛び込んで来た。

反射的にそれを支えるレオンハルト。

「うわあッ!!し、失礼致しました!ルクレツィア殿!」

慌てふためきながら、彼女の細い肩から手を離す。

「こちらこそ、ご無礼を。」

可憐な小さな白い花の様なその笑顔に、レオンハルトの心臓は口から飛び出しそうになった。

「さあ、レオンハルト様。お早くお連れ下さいませ!」

つん、と、無愛想に取り澄ました様な態度を取られる。

半ば無理矢理に閉められそうになった玄関の扉を、レオンハルトは慌てて押さえた。

「い、いいえ!それが、リュユージュ隊長はルクレツィア殿以外をご所望されておりまして…!」

ここで漸く、彼は自身の失言に気が付く。



可憐な小花は、一瞬にして枯れ葉の様になってしまった。



「あ…!いえ、あの、その…。」

レオンハルトは狼狽えて取り乱しながら、ルクレツィアに対して必死に言い訳を考える。

「本当ですの?では私が参りますわ!」

「いいえ、私が!」

「今宵は是非とも、この私が!」

だが、とても考え事など出来る状況ではない。耐えきれなくなったレオンハルトは、大声を出す。

「じ、自分はあちらにて、お支度が整うまでお待ちしております!」

つまり、逃げた。



彼女達は全員、リュユージュが抱えている寵姫である。

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