空中楼閣
「遅ェよ!!」
「わ!」
ルーヴィンはドラクールの部屋の扉を開けるなり、待ち構えていた彼に怒鳴られた。
危うくひっくり返しそうになった朝食をテーブルに置くルーヴィンに、ドラクールは掴み掛かる。
「おい、何だ!?一体、何なんだ!?何があったんだ!?」
「何だとだけ連呼されても、全く意味が分からないのだが。」
「惚けるな!!今、とてつもない事が起こっているだろう!?」
焦燥を隠そうともしないドラクールの様子に、ルーヴィンは驚倒した。
「少しは落ち着け。順番に話しなさい。」
「何て言うか…。意識してないのに、視えたんだ。いや、視えたと言うより、流れ込んで来た。頭の中に、直接。」
「何、がだ?」
ルーヴィンは眉を顰めて、ドラクールに向き合った。
彼は闇色の瞳をぎらりと光らせた。
火炎を吐き出(イダ)し
巨人が大地を這う時
緑は焼失し 海は沸騰す
「俺が視たのは、この大陸が焼き尽くされた図だ。」
改めてその未知なる能力を実感させられたルーヴィンの心中は、語り難い感情に支配されていた。
しかし悟られぬ様、努めて冷静に事情を述べた。
「昨夜、西方の田舎町が襲撃を受けた。恐らくそれだろう。」
「田舎町?違うな、そんな規模じゃない。」
「何だと?」
ドラクールの”予言”は、昨夜の襲撃より明らかに規模が大きい様子だ。
「俺から言えるのはそれだけだ。フェンヴェルグに報告するなりベネディクトに調査させるなり、後は好きにすればいい。勿論、信じなくったっていいんだぜ?」
彼は朝食に添えられていたトマトに噛り付いた。
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W.A