抜山蓋世
━━良い馬だ。安定してる。
リュユージュは殆ど操る事なく、馬に任せて山路を下った。
━━これだったらギル一人でも大丈夫だな。青毛なのも幸運だ。目立ち難い。
いよいよ木々を抜け出す時、リュユージュは速度を上げる為にもう一度踵を使う。
枝や葉が容赦なく、頭を庇う腕を襲う。枝は鞭の様に撓(シナ)り、葉は鋭利な刃と化した。
それでも更に速度を上げるべく、二度三度と踵を使った。
飛び出した其処は、炎の赤と影の黒の二色の世界だった。
山頂から確認した陣営の中心に、敵将を目視した。
火炎と煤煙と悲鳴が幕となり、彼女達は未だ襲撃に気付いていない様子だ。
━━よし、槍は持ってない。
華美に装飾された白馬に悠々と跨がる、敵将と二人の側近の女達。
リュユージュは馬上で時機を計りながら、着実に距離を縮めて行った。
敵将の前に突然、一頭の青毛の馬が燃え盛る炎の中から現れた。それと同時に、彼女の耳に何か鈍い音が届いた。
何事かと目を剥いている間に、馬は走り去って行った。
「…っ!?」
敵将も側近も言葉を発する余裕もなく、ただ目でそれを追うしか出来なかった。
一方、転がりながらも地面に降り立ったリュユージュは素早く起き上がり、低い位置から大将の懐に入り込んだ。
黒煙に巻かれて突如として姿を現したリュユージュに、敵将は下方から鞘で顎を突き上げられた。
彼女は驚く暇もなく、体勢を崩し呆気なく落馬した。
強かに打ち付けた体を起こした後に最初に視界に飛び込んで来た物は、白刃だった。
次に目に映ったのは、それを突き付けている青年の姿。
敵将はそれが何者かを知り、自分の末期を悟った。
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W.A