悲憤慷慨
其処は正に、地獄だった。
無造作に積み重なっている、未だ生暖かい死体。
生臭い緋色の湖沼が、辺り一面に広がっている。
一切の生命の息吹が消え去った血煙が舞う大地にしっかりと立つ、一人の青年。
それは他でもない、リュユージュだった。
「げえ…っ、うう…っ!」
そして、その横で嘔吐している赤毛の男。
「ねえ。君が言っている、ストロベリーブロンドの女なんていないよ。」
リュユージュは男の体調を気遣う事はなく、報告だけをする。
「あの小屋の中の女は違うし。」
その言葉を聞いた男は確認の為、顎を伝う胃液を手の甲で拭うと這うように薄板で造られた小屋の中へ入って言った。
「ぎゃあっ!!」
途端に響く男の悲鳴。
灯火に照らし出されていたのは、小屋に監禁され常に輪姦されていたであろう女だった。間違いなく正気を失っている事が一目で分かる。
辛うじて身に付けている衣服は極めて不潔で、頭髪は殆どが抜け落ち、だらしなく開かれた口からは涎と精液と思しき物が流れ落ちていた。
両目は縫い付けられており、足首から下がない。逃亡を防ぐ為だろうか。
「あ…あ…、ああ…っ!!」
男は力なく首を横に振り口元を手で塞ぐと、再びその場で嘔吐した。
「抜けちゃってて分かりにくいけど、彼女の髪はダーティーブロンドっぽいでしょう。」
背後には表情を何一つ変えていない、リュユージュがいた。
「きっと君の恋人は、連中に連れ去られたんだと思う。」
男は、山賊に拉致された自分の恋人と目の前の女を重ね合わせ、嗚咽を漏らした。
女は、足元に跪いて激しく啼泣する赤毛の男に対し、微かに唇を動かして話しかけて来た。
それは酷く嗄れていたが、間違いなく男の耳に届いた。
「殺、して…。もう…、…。」
リュユージュは懐剣を取り出すと、男に手渡した。彼はごくりと唾を飲み込むと、手を酷く震わせながら受け取った。
男はどうにか立ち上がる。しかし次の瞬間、男は短剣を足元に落とした。
「で、きねえ…よ…!」
言葉の終わりと同時に、一歩を踏み出したリュユージュが躊躇無く女の首を跳ね飛ばした。
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