残忍酷薄



拝命したのは、リュユージュと言う名前の小柄な青年だった。淡黄色より深い蜂蜜色の癖っ毛と、活気に満ちた翡翠色の瞳が印象深い。

「奴隷市場の調査ですね。承知致しました。」

彼は眉一つ動かす事なく、下された命令に従った。

「ええ、お願いね。」

リュユージュは無表情のままベネディクトに軽く会釈をし、彼女の書斎を後にした。






彼は出立の前に、ウィトネスの宮殿に足を運んだ。門衛達は敬礼をすると門扉を開けて館内へ導こうとするも、リュユージュはそれを断った。

「ここでいいよ。アリュミーナを呼んでくれる?」

「かしこまりました。」

暫くしてアリュミーナが宮殿から小走りで出て来た。

「もう、何よ!間もなく、ウィトネス様のお食事のお時間なのに!」

「そうか、済まない。でもこちらも急ぎなんだ、直ぐに発たないとならなくて。」

アリュミーナはリュユージュが手にしている書類の束に気が付いた。

「それ…、また特命?」

何の説明がなくとも、彼女は状況を理解したようだ。

「どうぞお気を付けて、兄様。」

笑顔を作ろうとしても素直な彼女にはそれが出来なかった様だ。

特別命令の内容は他言禁止である。当然、家族であってもだ。

しかし何れも、恐らくは危険な任務なのだろうとアリュミーナは心配そうに眉を下げる。

「じゃあ、行って来るね。」

表情こそ変えないものの、翡翠色の瞳を細めた彼は蜂蜜色の髪をなびかせて旅立って行った。






「神の御加護があらん事を。」

アリュミーナはもう見えなくなった兄の背中に短い祈りを捧げ、忙しない日常へと意識を戻した。

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