苦心惨憺



薄暗い室内においても無遠慮に光り輝いているそれは、見間違い様がない程の大型の耳飾りだった。

刻まれている形容は当然、正十字。

何時だったかの血液が付着したままだが、純金がその程度で腐食する事はない。



「あんたを黙らせるにはあと幾ら積めばいいんだ?」

フードの下の無表情な冷眼に、今度こそ城主は口を噤んだ。

「何処が最上級の部屋だ?此処か?」

その言葉を聞いて、城主は抗する事を諦めた。

「一番南側の最上階が特に日当たりがいい。ただ、水の調達は手間だがな。」

飲料水用の井戸は敷地内に数える程しかなく、全ては一階に設置されている。故に最上階ともなれば、日に何度も十階以上もの階段を往復する事になるだろう。

「今や空き部屋の方が多いんだ。好きに使え。」

そう溜息を吐いて項垂れた。






団長に言い付けられた先程の青年に事情を説明すると、快く案内を引き受けてくれた。

ドラクールが案内料を支払おうとすると、彼はそれを笑顔で断った。

「どちらかと言うと我々は正直、他の土地から来た人を警戒してます。ここでは事件が起こっても、政府は何もしてはくれませんから。」

自衛の意味で余所者を拒むと、彼は語った。

「そもそも、何だってこんなにも隙間なくビルが建ってんだ?」

ドラクールからすれば素朴な疑問なのだが、青年とリサは驚倒した。

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