暴虎馮河
「『ヴォーダンの要塞』は分かる?」
ドラクールは首を横に振る。徒歩圏内の城下町が彼の精一杯の行動範囲の為、地理に詳しくはない。
「此処より北にある、バレンティナ公国の租借地よ。」
「そしゃくち?」
彼は子供の様にその言葉を繰り返した。
「とても簡単に説明すると、キャンベル国内に在りながら立法・行政・司法の全てが及ばない区域よ。通称、『摩天城』。」
それでも良く理解が出来ず、頭の中は疑問符で埋め尽くされた。
「つまりキャンベルの国法は適用されないから、或いは可能性があるかもしれない。」
可能性。
それは、リサ達が生き延びられるかもしれないという潜在的な確率。
ドラクールはカーミラに詰め寄った。
「北って…、何処だ!?」
「待ちなさい、落ち着いて。君は摩天城と言う場所を、安易に考え過ぎている。」
「何故だ?」
興奮覚め遣らぬ面持ちのドラクールに対し、カーミラは冷静に語り始めた。
「言ったでしょう?国法適用外地域だと。何があろうとも文句は言えないわ。」
「どのみち、このままでは野垂れ死ぬしかないだろう!!他に生きる術があるか!?」
彼は声を荒げた。
「俺は約束したんだ!助ける、と。」
それは、魂の叫び。
「分かったわ。」
カーミラは決意を固めた表情でゆっくりと頷いた。
「では、七日後にまた来るわね。」
-69-
[←] | [→]
しおりを挟む
目次 表紙
W.A