暗中模索
「一体どうしたの?最近の貴方、変よ?」
「変?」
何処か虚ろな瞳をベネディクトに向け、ドラクールは言葉を続けた。
「ルーヴィンは、俺を『変わった』と言った。」
「同じでしょう?」
「同じじゃない。酷く気分が悪い。」
言い回し一つに拘泥する彼にベネディクトは溜息を漏らし、一先ず椅子に腰をかけた。
「何があったの?話して。」
「きっと多分、特別な事じゃない。」
━━そうだ。
通常の暮らしをしていれば、貧困階級の者を目にする場面などいくらでもあるだろう。
そして、幼い子供と接する機会も。
━━俺は…知らな過ぎる。
世界を。他人を。過去を。
「ねえ、ドラクール。」
彼の口から自らに起こった出来事を聞き出すのは諦めたのか、ベネディクトは穏やかな口調で諭す様に語りかける。
「貴方は本当に偉大な存在なのよ。それだけは自覚して頂戴。」
「偉大だと?」
買い物一つ満足に出来ない自身の、一体何処が偉大だと言うのだろう。
彼には未だ、理解出来ないでいた。
「誇りを持って。貴方は疎んで呪っているのかもしれないけれど、その能力は唯一無二なのよ。」
「おかげで監禁されているというのにか?」
彼には当然、分かっていた。
これまで一度もフェンヴェルグに先見を求められずにいたにしても、この能力の所為で自身は生かされているのだ、と。
「何度も言うけれど、誰も貴方を縛ってはいないわ。」
彼女は悲し気に、透き通る天(ソラ)の様な色をしたその双眼を伏せた。
「だったら何故、俺は此処へ閉じ込められている?もうあれから何年経った?十年か?いや、もっとだな。気が遠くなりそうでまともに数を勘定する事さえ出来やしない!」
昂ぶる思惑を抑えきれず、ドラクールは感情のままに吐き出した。
ベネディクトは極めて冷静を装っていたが、喉元にまで出かかった言葉がある。
『だったら外の世界で一人、生きれば良い』
と。
今の彼がこれを聞いたならば、間違いなく飛び出して行った事であろう。
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