生殺与奪



熟睡していたドラクールは突然、両手を縛り上げられた。

「…。何だ。」

必死に眠気を振り払い、細い視界に入った男を威圧する。

「見ろ。」

ルーヴィンが未だ目も満足に開いていないドラクールに突き付けたのは、記憶に新しいパンだった。

「来なさい。」

それを床に投げ出すと、ルーヴィンは乱暴にその手首を捻った。

一瞬、ドラクールは苦痛に顔を歪ませる。

しかし同時に頭を包み隠す様に布で覆われた為、それが露見する事はなかった。






━━ちょうど、こっちも話しがあったからな。

ルーヴィンに引きずられる様に歩きながら嘲笑する。

━━奴の方からお呼び出しとは好都合だ。

二人は衛兵を退ける様に大きな歩で、王宮の奥へ消えて行った。









ドラクールは視界を遮っていた布を、引っ張って落とした。艶やかな黒髪が顕わになる。



眼前には目が痛くなる程に輝いている、眩い王座。

ドラクールは謁見する度に思う。

この男は太陽にさえ背いているかもしれない、と。



「今朝早く、パン職人が訪問したとの報告を受けた。」

フェンヴェルグは傍らに行儀良く座っている、黒色の大型犬の背中を撫でた。

「貴様が依頼したらしいな?」

「記憶にない。」

聖王の目前においても跪く事などはせず、ドラクールは堂々と胡座(アグラ)をかく。

「貴様は他人の未来が見える事と引き換えに、過去を記憶する事が出来ないとでも?」

「ああ、そうかもしれないな。」

口角を上げ、失笑して見せる。



彼はやはり、自身の行動を偽ってなどいない。

昨夜、ドラクールは店主に対して『王宮までパンを届けろ』等と一言も言ってはいないのだから。



「では、パン職人の虚偽発言なのか?」

「そんな事、俺が知るかよ。」

犬は心地良さそうにフェンヴェルグに体を寄せている。

━━こんな男を慕うなど、所詮は畜生だな。

ドラクールは犬にすら悪態を付く。



「『黒髪の男の依頼』だと述べていたそうだが。」

今度はフェンヴェルグが嘲笑を見せた。

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