沈思黙考
それから一週間。
ルーヴィンはドラクールの異変に気付いていた。
━━雨でない日にも外出している様だな。
ドラクールが幽閉されてから、正しくは『保護』されてから、早くも十数年。
いつしか彼は夜中に徘徊するようになったが、それは例外なく雨が降る日に限られていた。
「お前は毎晩、外で何をやっているんだ?」
毎晩。
そう、ルーヴィンは誘導尋問に導く。
「毎晩なんて出かけていない。」
夕食後に早速一献を呷ぐドラクールは、片付けに来たルーヴィンを一瞥した。
「毎晩じゃなければ何だ。一日置きか?二日置きか?」
目を細めて口角を上げるルーヴィンを見て、ドラクールは漸く理解した。
「何が言いたい?俺に何を言わせたい?」
邪な策略家の聖職者よりも、浅慮で短絡な自身に腹が立った。
「それよりお前は雨が嫌いなのか?好きなのか?」
唐突に話題を変えられ、ドラクールは僅かに面食らう。
それを悟られまいと、言葉を選びながら答えた。
「嫌いだよ。」
「何故?」
ルーヴィンの表情は至って平穏で、他意はない様に思えた。
しかし、そこは自閉こそが保身との信念を貫きたいであろう、彼。意地でも同じ手にはかかるまいと、慎重な姿勢は変えない。
「…つき。」
「うん?」
ドラクールの口から申し訳程度に漏れた言葉をルーヴィンの耳は拾う事が出来ず、聞き返した。
「月が見えないから、雨は好きじゃない。」
現に留まろうとするも、夢に引きずられて行く。
彼の虚しい、抵抗。
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