感慨無量
そもそもドラクールは何故、夜の街を徘徊するのか。
答えは簡単だ。
占いの真似事をし、酒を得る小銭を手にする為である。
闇に葬られたも同然の彼が夜を好むのも必然だろう。
暗黒は彼に味方する。
異形のものを、飲み込んでくれる。
「若いの、易者かね?」
相変わらず石畳にうずくまる様に座っていたドラクールは、そのしゃがれた声を聞いた。
「こんな夜じゃあ、商売あがったりだろう。」
翁は杖をつき、足を引きずりながら近付いて来る。左足が不自由な様だ。
ドラクールは老人を一瞥した。
「あんた、風邪ひくぞ。」
例に漏れず今夜も雨が降っている。
「ほっほ、構わんよ。」
翁は彼の横に腰を下ろした。
てっきり客だと思い込んだドラクールの意に反し、翁は
「ああ。この様な老人に先見など必要ないよ。」
そう笑った。
「足、どうした?」
無言で横に居座る翁に耐え切れず、ドラクールは沈黙を破った。
「先の戦争でね。お前さんが生まれる前の話しだ。」
聖戦と今でも呼ばれるそれは、ドラクールどころか現在のフェンヴェルグ国王さえ生まれる前の事。
先王、つまりウィトネスの祖父が、謀反を起こしたのが発端らしい。
「馬鹿馬鹿しい、何が聖戦だ。殺し合いには変わりない。」
ドラクールは持っていた小瓶の酒を呷った。
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