悲哀感染
「女。」
ドラクールはようやく自由になったため、ベッドから抜け出した。
「女?」
ルーヴィンその動きを横目で追う。
「そう。俺が呼べばいつでも来るよ。」
ドラクールの目的は、これまた簡素なテーブルに置かれた未開封の酒瓶。
彼は生まれ付き重なった犬歯でコルク栓に噛み付く。それはポン、と、小気味良い音をさせて取り除かれ床に落とされた。
━━街で引っかけたのか?
「そうか、悪かった。今度からは必ずノックしよう。」
ルーヴィンは笑っていない瞳でそう皮肉る。
「必要ないよ。」
ドラクールは短く答え、一気に瓶を呷った。
「確かに此処には来るけどノックは必要ない。」
喉が焼けたのか。些か枯れた様な声。
「俺の前だけにしか現われないから。」
浴びる様に酒を飲み、
手前勝手に女を抱く。
ルーヴィンは常日頃から、目の前のこの自堕落な男には心底嫌悪している。
━━いや、少し違うか。
ドラクールがどれだけ身持ちを崩そうともルーヴィンの知った事ではない。
━━運命を握るのが、宿命を背負うのが、この男だから不快なだけだ。
「たまには手慰みでもしとけ。」
そう嘲笑するドラクールへの憤慨を抑えられそうになかったルーヴィンは、部屋を後にした。
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W.A