独善思想



今朝方から降り続く雨は、夜半になっても止む事はなかった。









昼には陽の輝りが、
夜には火の灯りが。

そのどちらかが僅かに照らすだけの、暗い室内。




━━感覚がなくなる。

簡素なベッドから起き上がると、男は月を探して窓に目を向けた。

━━雨。



優しい惑星を観賞出来ない事を少しだけ憂い、彼は黙々と仕事に向かう準備を整えた。









小雨はまるで霧の様に街に立ちこめている。

━━出歩いているのは夜盗と俺ぐらいなもんか。

男は自嘲し、毎回と同じ場所に座り込む。衣服が湿るのも構わずに。

何もない、石畳の広場。



其処が、彼の場所。






「お兄さん、何やってんの?」

暇潰しになるかと転がっていた石ころを無意味に積み上げていた男は、掛けられた声に顔を上げた。

「わッ、いい男!」

女は嬌声と共に男の正面にしゃがみ込んだ。

「ね、ね、ヒマなら私と遊ばない?お兄さんなら安くするわよ。」

そう言いながら抱き付く女にも、男は無表情のままだった。

「いらないぞ。」

女の耳元でそう呟く。

「いらないとはご挨拶ね!これでも私、結構売れてるのよ?」

酒に酔っているのか、女はひとり楽しそうに笑った。

「違う。こっちが『金はいらない』って言う意味だ。座れ。」

怪訝そうな顔の女はそれでも、腕をゆるめて静かに離れ男の言葉に従った。

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