不得要領
「ウィトネス?」
少女が中庭に差しかかった頃、噴水の向こうで声を張り上げる男がいた。
「ウィトネス!おい、ウィル!!」
その男━━ルーヴィンは白藍色の法衣の長い裾を軽く持ち上げて走り寄ると、彼女の腕を掴んだ。
「…あ…、国師様…?」
「あ、じゃないでしょう。何をなさっているのです、こんな時間に。」
この世界にも『良い子は寝る時間』というものが存在する。
「寝苦しくて。」
今夜の空気は妙に生温い。まるで意志のある生物の様に、執拗に肌にまとわりついていた。
「風に当たりに来たのですか?」
少女に質問をしながらも、焦燥の表情のルーヴィンの双眼は彼女を捉えてはいない。
彼の視線は少女が来た、その方向。
この中庭を抜けた先には整備された花園がある。それに小さな池。
更に奥には、石工の塔。
今にでも崩れ落ちそうな外観とは裏腹に否が応でもその存在を主張している、【悪魔】の閨。
ルーヴィンは頭を過った闇を懸命に振り払った。
「さあ、ウィル。もう戻りましょう。」
掴んだ掌に力が込もる。
━━誰にも、誰にも渡さない。お前が最後だ。
「はい。」
おとなしく従う少女に安堵ししつ、彼は足早に手を引く。
少女の名は、ウィトネス。
ウィトネス・キャンベル。
この世界を総括する聖王、フェンヴェルグ・キャンベルの唯一の嫡出子である。
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W.A