旭光の中、高楼から城門を監視していたベネディクトは人影を認めた。

━━動き出したわね。

彼女は気配を消し、城壁に沿い街へと向かうと思しきその人物の追跡を始める。

ドラクールはと言うと、赤い蝶を見失わぬ様にと神経を集中させながら歩を進めていた。事前にカーミラに忠告されていたにも関わらず背後にまで気を回す余裕など到底なく、ベネディクトの存在に気が付いていなかった。



眠りから未だ醒めぬ城下街を抜け、二人は一定の距離を保ちながら移動していた。

すると突然、ドラクールは街路を外れた。

ベネディクトは急いて後に続いて周囲を見渡すが、既に彼の姿は何処にも無い。

其処は樹木の立ち並ぶ平地。彼方には稜線が照り映えている。

━━こんな見通しの良い場所で見失うなんて…。

些か、彼女は自身の驕慢に対して忸怩たる思いが湧き起こった。



するとその時、光彩の中を月色の馬が駆け抜けて行った。



余りの美しさに一瞬息を呑んだが、直ぐにベネディクトはドラクールの酷い馬術に幻滅した。

━━駿馬が台無しね。

一人でそう、首を横に振る。



今、自分には馬がない。現時点での追跡は断念し、彼女は踵を返した。









幸いにも追っ手から逃れたドラクールは、文句を言えた立場ではないと弁えてはいるものの予想以上の激しい馬上の振動に、辟易していた。

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