「他の手?他にどんな手段があると?」
ドラクールは苦笑とも失笑とも、どちらともとれる笑い方をした。
「だいたい君は何がしたいの?」
「俺は救いたいだけだ。」
「では、何があの兄弟の救いになると思う?」
詰問とは違い相変わらず諭す様な口調のカーミラだが、その内容は手厳しい。
「君が稼いで養うとでも?全世界のどれだけの数の人々を救う気なのよ。」
飢餓に苦しんでいる世界中の全部を救うなど、それこそ夢物語だろう。
「分かってる。俺の言っている事は利己的な意見だ。それでも俺は、」
ドラクールは俯き、自身の膝に置いた震える拳を見つめた。
「助けたいんだ。」
深い感慨に彼は重い溜息をつく。
「俺と同じ思いは、もう誰にもさせたくない。」
囁く様な小さな小さな彼のこの言葉に、カーミラは目を伏せた。
「どうしてこんなに苦しいのに、人は生きるんだろうな?」
「死んでしまった方が楽だった?」
カーミラの表情は穏やかだが、心中は決してそうではない。
「どうだろう。少なくとも昔は願っていた。死にたくない、と。」
ドラクールは窓に顔を向け、その双眼は本物の月を捉えた。
「今の俺はどうなんだろう。」
何かに、誰かに、問いかけてもその答えが返って来る筈がない。
自身で導き出すしかない、回答。
「私も同じ様に願ったわ。」
そう寄り添うカーミラの過去に思いを馳せるドラクール。
だが彼女はいつもそれを頑なに拒否する。つまり、ドラクールはカーミラの事を何も知らないのだ。
それに反して、カーミラはドラクールの事は全て認識している。
何も語らずとも、身に起こった出来事から現在の心境までをも。
”月”に━━…
見守られている安心感。
見透かされいる劣等感。
それが彼の中では常に対立していた。
「私は君に出会えて嬉しいわ。」
カーミラの心境は今、懺悔をしているに等しい。
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