「済まねェな、マクシム。」
「はい?」
基地に戻ったヴィンスは書斎にマクシムを呼ぶと、鬱屈とした表情で机に肘を付いていた。
「ああ、さっきのですか?大丈夫ですよ、提督には叩かれ慣れているんで。」
マクシムは普段の親近感のある笑顔で、頭に右手をやった。
「いんや。洒落んなんねって、コレ。」
その暗然とした雰囲気を感じ取ったマクシムは、徐々に真顔になって行く。
「お前、一生懸命やって来てたってのにな。」
ヴィンスは机の引き出しから葉巻を取り出して慣れた手付きで吸い口を切り落とすと、火を点した。
「俺、それを潰すような事だけはしたくなかったんだけどよ。本当、済まん。」
事情を飲み込めないマクシムは、ただ首を捻るばかりであった。
「何かあったのですか?」
「いいや。」
しかしその言葉とは裏腹に、ヴィンスが重大な事情を抱えている事が容易に読み取れる。
「お前が今回バレンティナと遣り合ったのだって、餓鬼の喧嘩みてェなもんじゃねェか。何でわざわざ俺が出てかなきゃなんねェんだよ。」
言葉と同時に紫煙が吐き出された。マクシムが普段吸っている大衆的な煙草とはまた違う、独特の香りが彼の鼻孔を突く。
「そう、思ってたさ。正直。」
窓から射し込む、暖かな午後の陽光。ヴィンスは暫し無言で、窓外に視線を向けていた。
彼は再び紫煙を吐き出すと、話しを続ける。
「小耳に挟んだんだけどよ。ヴェラクルースの奴等が、━━…。」
言い淀むヴィンスに対して、マクシムは直立不動のまま次の言葉を待つ。
「あ、いや、やっぱいいや。俺の主観で話ししても仕方ねェもんな。」
そう言うと葉巻を灰皿に置き、椅子から立ち上がった。
内容を全く理解出来ていないマクシムは、慌てて声を掛ける。
「提督、どちらへ?」
「ちょっとな。友達(ツレ)んトコ。」
彼を包み込んでいる陽の光の様な穏やかな笑みを、ヴィンスは見せた。
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